諌早湾干拓事業による堤防閉め切り12年に際しての声明 
      
                           2009年4月14日
                            日本共産党長崎県委員会

  4月14日、諌早湾干拓の潮受け堤防による諌早湾の閉め切りから12年目を迎えた。国営事業としては終了し干拓地での営農が開始されているが、有明海の漁業被害はいっそう深刻になり、事業への県の莫大な費用負担が続き、県民の被害は増大している。
 国と県が、営農・防災と両立できる堤防水門の開門を一日も早くおこない、事態の抜本的な改善をはかるよう強く求める。

1.佐賀地方裁判所は昨年6月27日、国に対して干拓堤防水門の常時開門を命じる判決をくだした。判決は「本件事業は、諌早湾内及び近傍場において、漁船漁業並びに養殖漁業の漁業環境を悪化させている」と認定し、被告・農水省は「本判決確定の日から3年を経過するまでに、防災上やむを得ない場合を除き、干拓堤防の排水門を開放し、以後5年間各排水門の開放を継続せよ」と命じた。漁業被害に苦しむ有明海4県の漁民ら原告2500人の訴えを認めたものである。
 裁判所が国に対して堤防水門の中長期開門調査を求めたのは、これで三度目である。   
 2004年8月の佐賀地裁の仮処分決定、翌年5月仮処分決定を取り消した福岡高裁決定、そして今回の判決である。それぞれ決定や判決の内容は異なっていても「国はノリ不作等検討委員会が提言した中長期の開門調査をおこなう責務を負っている」として、その実施を国に求めている点では、司法の立場は一貫している。これを無視して、中長期の開門調査を実施せず、漁業被害の原因を究明して科学的な対策の確立を怠ってきた国に対して、今回の判決は「立証妨害と言っても過言ではなく、訴訟上の信義則に反するものといわざるを得ない」と厳しく断罪した。

2.この開門判決は被害に苦しむ漁民と、そのため地域経済が崩壊しつつある沿岸住民に、有明海再生への大きな希望を与えるとともに、事態を憂慮する日本中の人々から賛意をもって歓迎された。新聞各紙も社説で「アセスなき事業の帰結」「水門開放へすぐに動け」と求めた。被害を受けている佐賀、熊本、福岡の各県知事と県議会が、判決を支持する立場を取り、政府に開門を求める要請をおこなった。原告漁民も、判決どおり一日も早い開門を、と政府と国会への要請行動を重ねた。
  しかし、農水省が判決に従わず開門に反対して福岡高裁に控訴したのは、さらに被害を拡大させ、いたずらに漁民の苦しみを長引かせるものであり言語道断である。

3.国会では、農水省に対し与野党の議員から開門を求める質問が相次いでいる。判決当時法務大臣であった鳩山邦夫総務大臣は、控訴を決める権限を持つ大臣として、開門すべきという立場から控訴に反対していたことを答弁で明らかにした。鳩山大臣は、衆議院総務委員会で「当時の若林農水大臣に、とにかく開門する、開門を前提にしてそのためのアセスをやりなさい.その腹を固めてやってくださいよといいました」と、農水大臣との間に開門の合意があったという事実を明らかにした。また判決当時農水副大臣であった岩永浩美自由民主党参議院議員も、本年3月6日と27日の予算委員会質問で開門するよう重ねて要求した。このような状況で、なお開門に反対する態度をつづける農水省と長崎県の主張に道理はなく、いよいよ孤立を深めている。

4.長崎県小長井と佐賀県大浦漁協の組合員41名が、堤防水門の開門による漁業の再生と漁業被害の損害賠償を求めて昨年4月、長崎地裁に新たな訴訟を起こした。「よみがえれ!有明海訴訟」の一環で、諌早湾内漁民がはじめて原告として参加した。原告の訴えで、着工前の補償契約時に国は、湾内4漁協に対しては「諌早湾内における漁獲減は工事期間中で2割、工事が終われば元に戻って、漁業経営の存続は可能になる」湾口部の大浦や島原漁協に対しては「影響は軽微」と、実際より被害をはるかに小さく説明していた事実が明らかにされた。これまで国や県が言ってきた「被害の補償は工事着工前に終わっている」という主張が根拠のないものであることは明白であり、被害の実態にそくした補償を漁民におこなう責務をまぬがれない。

5.福岡高裁と長崎地裁の有明海訴訟では、原告漁民から「閉め切り後はじめて起こった冬の赤潮で、今年も大きなノリの色落ち被害が出た」「多額の借金を負う者、自殺する者もでて、漁業の後継者もいなくなり、今年から地域の祭りが中止された」と、いっそう深刻になる漁業被害とそれにともなう地域崩壊の実態がのべられ、有明地域再生のために一刻も早い開門を求める切実な訴えがつづいている。
  国や県は、開門できない理由として「@防災機能が失われる。A開門被害の防止に膨大な費用がかかる。B農業用水が失われ営農に支障をきたす」などをあげている。

 原告側は「@判決でも開門は『防災上やむを得ない場合を除き』とされている。高潮などの際には閉めればよい。判決が『堤防が発揮している防災機能等については新たな工事を施工すれば代替しうる』と示したように、防災機能を維持する道はある。A開門は、佐賀地裁で証言した『もぐり開門』などのように調節して行えば、被害は防止できるし膨大な費用はかからない。B調整池には、有毒なアオコが発生しており食の安全上農業用水には適さない。本明川など周辺河川の余剰水や高度処理された諌早市下水処理場の排水を活用すれば代替できる。」とのべ「防災・営農と両立できる開門は可能」と主張しており、開門に反対する国や県の主張は、もはや道理を失っている。今後、裁判所が双方が主張する争点を整理し早期の解決がのぞまれている。

6.干拓事業への公金支出差し止めを求める訴訟の控訴審も福岡高裁で続いている。
裁判で争われている干拓事業への膨大な支出が、県民生活に犠牲をもたらすという点は、2008年度の県予算で現実のものになった。
  県の諌早湾干拓事業費は総額94億7800万円で、うち干拓用地リース制度関連の支出が58億1800万円、干拓地農業支援に22億6800万円と、41の入植農家・法人のために破格の支出が行われた。いっぽう県民向けの高齢者配食サービス補助、障害児保育への加算補助、被災県民への見舞金、母子家庭児童の入学祝品支給が軒並み廃止され、学校図書館の司書配置補助、離島生徒の体育大会・文化祭への派遣費補助、老人クラブ補助が削減された。県民が不況で苦しむ時、県民生活支援を最優先にする県政への転換こそつよく求められている。

 干拓調整池の水質対策事業にも国・県・市町の巨額の資金が投入されている。事業費は、2004年度から08年度の5年間に総額229億3000万円にのぼったが、調整池の水質汚濁は改善されず有毒なアオコが発生している。国営干拓でつくった岡山県児島湖のように20年間に5500億円を投入してもなお水質が浄化されない先例もある。開門で海水を入れ、これ以上のムダづかいをやめるべきである。