日本共産党長崎県委員会は、2008年4月14日、諌早湾干拓堤防閉めきり11周年にあたり、声明を発表し、関係者に配布・送付しました。
 その声明を紹介します。

諫早湾干拓事業による堤防閉め切り11年に際しての声明

                            2008年4月14日
                           日本共産党長崎県委員会
 

 4月14日、国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防による諫早湾の閉め切りから11年目を迎えた。事業は3月末で終了し、干拓地における営農が開始されたが、事業がもたらした深刻な事態は、たえがたい被害を県民にもたらしており、一刻も早い救済と改善が求められている。
 
1.かつて有明海の漁業生産は、面積あたりで瀬戸内海の4倍、容積あたりで6倍にもなり日本一であった。最大6メートルに達する潮汐と潮流、全国の40%を占める広大な干潟と栄養豊かな海は、大きな恵みをもたらす「宝の海」であった。

 この海に干拓工事開始以来異変が起こった。海底のヘドロ化が進み年間10億円の水揚げがあった諫早湾のタイラギが1993年にはまったくとれなくなり、今日まで15年間の休漁を余儀なくされている。更にタイラギの絶滅被害は、佐賀県大浦沖から熊本県荒尾沖と有明海全体の漁場に広がっている。

 潮受け堤防の閉め切り後はいちじるしい潮流の減少が起こり、旧有明町沖で33%、旧島原市沖で22%の減少が観測された。これにともない赤潮がかってない規模で頻発するようになった。魚は獲れなくなり、アサリの死滅が繰り返し起こり、ノリやワカメの養殖も甚大な被害を受けた。

 有明海全体の水揚げ高は、干拓工事着工前1986年の289億円から、2003年には85億円と三分の一に減っている。漁民の生活苦は年々深刻になり、沿岸漁民の自殺者は20人を超え、地域経済全体にも危機的な影響を与えている。
 事業着工前の国と地元漁協が結んだ漁業補償契約では、「湾内の被害は二割程度。事業終了後は元の漁が可能」とされていたが、被害は想定よりはるかに大きく、元の漁ができる状態にはない。このため、小長井などの漁民が、新たな訴訟を起こすことを決定した。国と県の契約違反であり、漁民の損害賠償請求に応えるべきである。


2.この異変の原因が諫早湾干拓事業にあることは、誰の目にも明らかである。2000年のノリの大凶作時に、原因解明のために農林水産省が設置した調査検討委員会も、「諫早湾干拓事業は重要な環境要因である流動および負荷を変化させ、諫早湾のみならず有明海全体の環境に影響を与えていると想定される」として、環境回復の方策として潮受け堤防の水門開放をあげ、そのための短期・長期の開門調査を提言した。

 しかし、政府は本格的な開門調査をしないまま、「有明海特措法」によって750億円をつぎ込み、水門開放以外のさまざまな「再生」事業を行ったが効果はあがっていない。有明海の環境を改善する方策は、水門を開放して潮流を回復させ、干潟の再生によって海の浄化能力をよみがえらせる以外にない。いまこそ適切な方法で水門開放をおこない、有明海再生を図るよう強く要求する。


.干拓調整池の水質は悪化し有害なアオコが発生するにいたった。調整池の水質対策には2005年度までに400億円が注ぎ込まれ、更に560億円が必要とされているが、水質目標達成のメドさえたっていない。

 岡山県の干拓で閉め切られた児島湾のように、完成以来20年間に5500億円かけても浄化しない前例から見ても、今後どれほど費用が膨れ上がるかわからない。知事が言及したように干拓地の農業用水は、アオコに汚染された調整池の水を使わず、本明川など他の水源を使用すべきである。

 そうすれば支障なく調整池の水門開放ができ、干拓地の農業にとっても、漁場が再生され漁民にとっても有益であり、これ以上水質対策に税金投入の必要がなくなる。


4.諫早湾干拓事業には、これまで2533億円の税金が注ぎ込まれ、県民負担は422億円にのぼった。「5年後には県の基金がゼロになる」という深刻な財政危機のなかでも、毎年30億円にのぼる干拓事業予算は優先的に支出され、そのしわよせはすべて県民生活むけの予算削減とされてきた。

 本年度予算でも、干拓事業は終わったというのに94億円という過去最大の予算が干拓農地などに支出される一方、高齢者、障害児、救急医療、教育などの予算がのきなみに削減された。今後3年間の「収支構造改革」でも、諫早湾干拓や長崎「新幹線」には最優先で予算を確保しながら、福祉保健部、こども政策局、教育庁など県民生活の一番大事な分野では170項目29億6千万円の削減を見込んでいる。
 このような県民生活向けの予算をけずっての干拓事業推進はただちに中止し、県民生活優先の県政に転換するように要求する。


5.漁民と県民に多大な犠牲を強いて完成した干拓農地に、谷川衆議院議員・農林水産政務官の長男が代表取締役、金子知事の長女や谷川政務官の長女と政治団体関係者が取締役である農業生産法人「株式会社T・G・F」が、32ヘクタールの貸付を受けていることが明らかになった。

 農地672ヘクタールに対して996ヘクタールの応募があり62者中42者が選ばれる1・5倍の高い競争率であったが、わずか一年前に設立した新規参入の親族企業が選ばれている。しかも獲得した場所は小江干拓地で、国道わきに位置し海面より高く浸水のおそれがない好条件の土地で、さらに競争率が高かったが、「T・G・F」はその三分の一を手に入れたことになる。

 多くの希望者を差し置いて、知事と事業官庁政務官の親族がまっさきに入植することはまったく言語道断であり、選抜の経緯には重大な疑惑がある。この事実が報道された翌日、ただちに谷川政務官の長男と長女、金子知事の長女は取締役を辞任している。この事態を知りながら入植をすすめた知事と谷川政務官の責任は重大である。

 知事は新聞テレビの談話で「娘から話を聞いて『まずい』と思ったが、いいそびれてしまった」と言っている。知事がまずいと思い、本人たちがただちに辞任するほどのことをさせてきた責任は知事や谷川政務官にはないのか。金子知事と谷川政務官は、県民の前に真相とその責任を明らかにするよう、厳重に要求する。
                                              以上