「しんぶん赤旗」2006/7/12-13
諌早湾干拓農地 
住民監査で浮上したものは

 「長崎・諫早湾干拓農地に県の公金支出は許せない」。住民監査請求した
県内諸団体の代表が県監査委員に意見陳述しました(七日)。住民の訴えか
ら浮かび上がった長崎県政の問題点とは。   (長崎・田中康)
 

  「公金支出は「最悪の効果」
 長崎県は諌早湾干拓の造成農地(七百f)をリース方式にするため、農業振興公社をトンネルに五十三億円の公金を支出することにしています。住民監査請求は、「この県の支出は許されない」と県内の諸団体の代表ら七十六人が訴えているものです。
 
2時間の陳述  
 九十人の席が準備された会場は、請求人やマスコミでいっぱい。県諌早湾干拓室の関係者も出席しました。
 「こんなことが許されるなら、私も意見を言いたい」。請求人全員が意見陳述の機会を求め、この日は二時間の陳述が認められました。
 正面席の四人の監査委員に向かって、請求人や代理人が次々に陳述。二十一人が、「五十三億円の金があるのなら県民の暮らしにこそ」と、それぞれの立場から公金支出の不当性を訴えました。

県政全般の問題
 代理人の弁護士は冒頭、五十三億円の公金支出は法で定める「最小の経費で最大の効果」どころか、「最悪の効果」を生み出すと具体例をあげて指摘。「一方、圧迫を強いられているのは暮らしと福祉・教育の予算、(陳述を真摯に聞き)その実態を見極めてほしい」と訴えました。

 ある人は業者の家計の現状をのべ、「収入の切れ目が暮らしの破壊だ。国保や介護減免などで明日に夢が持てる県政を求める」と訴えました。
 労働組合の代表は、「諌早干拓には湯水のごとく税金がつぎ込まれたが、もうけたのは大手ゼネコン。労働者の労働条件は厳しい」とのべ、これ以上のムダ遣いは許されないと結びました。
 女性の請求人は、「乳幼児医療費助成で、窓口払いのない現物給付こそ若い世代、子育て世代が求めている」と要求。医療関係者や年金生活者は、「他県が数億円単位で支出している市町村国保。長崎県は今年度、わずか一千万円の補助金すら財政難を理由に削った」「介護保険料はいや応なしに年金から天引きされ、県はわずかな敬老祝金までとりあげた」と告発しました。

 陳述後の集会で代理人の弁護士は、「全陳述を通し、五十三億円もの公金支出が単に諌早干拓の問題だけでなく、将来にわたる県政全般の重大問題であることが浮きぼりになった」と語りました。

県は農業や漁業なおざり


 これまで農水省は、「諫早湾干拓事業の影響は湾内に限られ、有明海への影響はない」と繰り返してきました。
「よみがえれ!有明海訴訟」を支援する全国の会の岩井三樹事務局長は、「被害は沿岸四県に広がった。採貝と漁船漁業は壊滅的で、ノリ養殖も採期を延ばしているだけ。漁業不振を苦にした自殺者は十八人にものぼっている」といいます。
 南島原市の農民(64)も語ります。「農業は衰退し後継者もいない。最近もトマトの暴落で採算があわず自殺者も出た。本当に干拓農地への入植者がいるのか」
 実際、意見陳述には、諫早湾干拓事業を優先し、農業や漁業の振興をなおざりにしてきた県政に疑義を唱えた農業や漁業関係者がいました。
   
全漁業者の思い
 ノリ漁民の一人は「全漁業者の思い」と前置きして訴えました。「漁民の相談窓口である水産改良普及所の統廃合で職員も減り、タイラギ消滅や赤潮多発、魚獲激減への対応も弱まった。県が真に有明海再生をいうなら、佐賀県のくらし環境・有明海再生課に負けない専門部署を設置すべきだ」と。
 長崎県の干拓農地リース案は「リースは経営見通しがないための苦肉の策」と批判したのは、農と食の研究家・横林和徳氏。「諫早市内でも飯盛の畑地は基盤整備で見違えるようになったが、有明海沿いの長田、小長井、高来など多良岳山麓は広くても耕作放棄地(写真)が目立つ」とのべ、県農政として先にやるべきことがあると主張しました。

将来へ禍根残す
 諫早市の福岡洋一前市議は、自ら調査した岡山県の干拓地・児島湖の例をあげ、「二十年間に五千七百億円かけたが水質は改善しない。農業用水となる調整池の水質改善・維持管理で半永久的に県費投入が必要になるのは明白」と、将来にわたり禍根を残す事業への税金投入に異議を唱えました。

 陳述をしめくくった弁護士は、@県が一括購入の資金をだすのはなぜかA将来にわたる維持管理費はだれが負担するのか−など四点を、監査委員として知事に具体的回答と資料を求め審理するよう繰り返し要求しました。
 関係機関陳述は一人だけでした。県諫早湾干拓室の鶴田孝廣室長は、「入植希望者は三・七倍」といいながらリース方式でなければならない根拠は示すことができませんでした。
 県民の関心が高まっている監査委員の結論は八月四日までに結論を出される予定です。