長崎県諌早市内を南下し、中心部で東に折れて諫早湾奥の調整池に流れ込む、全長二十一`の一級河川・本明川。その上流に、「百年に一度の大雨対策と、水不足解消のため」として、本明川ダム建設計画がすすめられています。(長崎県 田中康記者)     *写真はダム建設予定地
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 五百三十九人もの死者・行方不明者を出した一九五七年の諫早大水害。「めがね橋」など、強固な橋脚が流木類を大量にたい積して流水をせき止め、はんらんした濁流が両岸周辺の被害をいっそう深刻にしました。
 元諫早市議の北村伝さんは、「背景に、終戦直後広範囲に実施された森林伐採で、源流周辺の里山の保水能力が大きく低下していた問題がある」と指摘します。
 改修計画ではダム案は、水を通しやすい多良山系の地質から「ダム築造には不向き」(諫早水害誌・一九六三年)と、ほとんど問題になりませんでした。その後、川幅を二倍に広げ川床を掘削するなどの改修工事が国直轄で実施されましたが、流域堤防の完成はいまだに計画の四割程度にとどまったままです。
 市内低平地の排水路整備やポンプ設置など都市計画上の不備も、内水被害をたびたびもたらしています。
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 七百八十億円をかけた本明川ダム建設計画が浮上したのは一九九一年の計画改定後。「八十年に一度の大雨でも氾濫しない川」が「百年に一度|」という基準に見直され、とくに、ダムを前提とする「河川整備基本方針」がつくられてからです。そこでは、住民参加も、コスト高や自然破壊など損失が大きいコンクリートダムに変わる代替案の提起もありません。
 「脱ダム」という世界的流れのなか、保水能力がダムの九倍ともいわれ、貯水や水源涵養機能、土砂防止など多様な機能を持つ「緑のダム」の検討すらないまま、昨年十月「整備計画原案」がつくられ、年度内策定が急がれています。そこには、コンクリートダムさえあれば洪水防止ができるという旧態依然とした治水行政と、「大企業による公共事業」への依存体質が横たわっているといわざるをえません。
 諫早自然保護協会の向井安雄会長BMは、「大水害では、約一千カ所ともいわれる山崩れが発生した。森林対策の失敗によるものだった」とのべ、ダムに頼らない治山・治水一体の総合的河川対策を主張しています。
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 ダム計画は、「さらなる水需要の増加が見込まれる」と、長崎市など二市六町への水道水供給(利水)を強調します。
 しかし、供給水の三割を受水する予定の長崎市では人口も水需要も減り続け、同市の中田ごう市議は、「市も『かつてのような需要増加は見られない』とのべており、水需要の過大な見積りは見直しが必要」といいます。「原案」に意見をのべた本明川流域委員会も、「最新の資料に基づき、将来の水需要予測を適正に見直し、計画に反映させる」よう提言しています。
 また、重大なのは、計画原案が「ダム完成」までの約三十年間の防災をどうするのか示していないことです。生態系への影響や諫早湾干拓の「防災効果」との関連、有明海に与える影響についても明らかにされる必要があります。市民と専門家が参加する真摯な再検討がどうしても必要です。
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 日本共産党・仁比聰平参院議員の話
 無数の山崩れ、土砂や流木による洪水被害の拡大という諫早大水害の特徴はダム建設で解決できない。六割もの未改修堤防の築堤や河床しゅんせつ、森林保全こそ必要だ。「ダム建設先にありき」で、広域水道企業団が長崎などへの送水管を先行布設していることは言語道断だ。国会でも取り上げていきたい。

「ダム建設先にありき」の本明川ダム計画に「異議あり」

「しんぶん赤旗」2005/1/15