1.進む有事法制の先取り
 今年六月六日、政府・与党三党と民主、自由両党は、参議院本会議で憲法に違反する有事関連三法案の採決を強行・成立させました。
 政府与党が国会で多数を占めながらもこの法案を一年二ヵ月にわたって強行できなかったのは、国民の中に脈々と浸透していた憲法9条の精神と全国各地で展開された反対集会、自治体から寄せられた批判の声など、国民の世論と運動を無視できなかったからです。
 このたたかいさなかの昨年六月六日から十日まで、長崎港に米国のイージス・ミサイル駆逐艦カーティス・ウィルバー(横須賀配備)が入港し、松が枝埠頭に接岸しました。米国のアフガニスタン攻撃に出動し、罪のない国民を傷つけた軍艦です。とりわけ米国有事体制のもとで、核トマホークミサイル搭載の疑いが濃厚でした。
 長崎市の伊藤一長市長は「断じて受け入れることはできない」とコメントを発表。在福岡米領事館からの原爆資料館「入館手配」申し入れを拒否し、艦長の表敬訪問も断りました。港湾管理者である長崎県の金子原二郎知事は外務省へ二度にわたって入港回避を申し入れましたが、「安保条約と地位協定上、入港は拒否できない」との立場をとりました。
 入港時の埠頭周辺では、有事法制の先取りともいえる異常な事態が起きていました。県営松が枝駐車場がテロ対策として「都合により休業」となりました。米軍の要望を受けて、県臨海開発局と警察が協議のうえ、駐車場を管理している県交通局に申し入れを行い、交通局が閉鎖の措置をとったためです。埠頭も二重のフェンスが張られ「立ち入り禁止」とされました。今までこんなことはありませんでした。
 同艦の入港にあたっては、次の民間業者が動員されました。▼し尿処理‖長崎衛生公社(株)、▼ごみ処理‖環境産業(有)、▼給水‖長崎給水(株)、運搬業務‖昭和タクシー、観光タクシー▼水先案内‖長崎水先区水先人会、▼タグボート‖光和興業(株)、洞海マリンシステムズ(株)。これらは代理店である長崎倉庫(株)が手配したものです。当日は、米軍横須賀基地から湘南ナンバーのトラックが接岸用のクッションを、佐世保基地から長崎運送(株)が昇降用のデッキを運び設営・撤去しました。これは米軍基地が直接手配したと思われます。
 米軍佐世保基地は安保条約と日米地位協定によって提供されています。長崎で有事法制が発動されたら今回のような協力の「要請」が、罰則付きの「義務」に変わり、立ち入り禁止のフェンスの中が「米軍長崎基地」になることでしょう。
 カーティス・ウィルバーの出港時、甲板で防弾チョッキを着た乗組員がマシンガンの銃口を市民に向けていた光景がそれを物語っていました。
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 2.イージス艦から魚雷まで
 八月二十九日、三菱重工長崎造船所の香焼長浜船台(長崎県香焼町)で船体建造中だった護衛艦が進水し、「さざなみ」と命名されました。進水後、民間業者のタグボート三隻に曳航され、同造船所の八軒屋岸壁(長崎市)に接岸しました。武器の取り付けなどの艤装(ぎそう)工事の後、二〇〇五年二月に就役予定です。建造費は約六百四十億円、時期を同じくして建造中の豪華客船ダイヤモンド・プリンセス号の約一・五倍もの価格です。
 被爆の街で武器生産を続ける長崎造船所。年間生産額の一割が艦船と魚雷を中心とした軍需生産で、費やす労働時間も一割程度といわれます。
 同造船所では戦前、「武蔵」をはじめとする三隻の戦艦、四隻の航空母艦など、合計八十二隻の艦船を建造しました。
 戦後、発足したばかりの防衛庁は警備艇二隻の建造を決定し、長崎造船所がその第一番艦を受注、一九五六年に護衛艦「はるかぜ」として就役させました。これまでに建造した護衛艦は二十四隻にのぼります。
 「護衛艦」は格段の攻撃能力を備えた戦闘艦で、海外ではデストロイヤー(駆逐艦)と呼ばれるもの。米軍と同じ艦記号などが使われています。毎分百発の砲弾を発射できる主砲、射程が百`bもある対艦ミサイル、毎分数千発を発射できる全自動機関砲のほか、対空ミサイルや対潜兵器、魚雷などが装備されているれっきとした軍艦です。
 長崎造船所建造の護衛艦にはイージス艦が三隻含まれています。その建造費は一隻で約千二百億円。レーダーシステムは、周囲五百`bの攻撃目標を自動探知して追尾・認識し、同時に十個以上の目標にミサイルを発射できるとされます。もともと空母護衛用に造られたもので、米国と日本以外ではスペインが一隻保有するだけです。
 三菱長崎造船所は魚雷生産でも歴史があります。戦前の三菱兵器製作所は、唯一の魚雷工場として月産二百本を生産していました。戦後、同造船所に併合され、一九五四年の自衛隊発足と同時に魚雷生産を開始し、今日まで量産体制を続けています。潜水艦に搭載する長魚雷が年間五〜六本、護衛艦や対潜哨戒機に搭載する短魚雷が年間二十二〜二十四本生産されています。
 魚雷部品は長崎市の幸町工場でつくり、諫早市の諌早工場で組立てられ、長与町の堂崎海岸(大村湾)で発射(追跡)試験が行われます。
 そのほか、護衛艦のミサイル発射システムの製造も行なっています。
 ながさき平和委員会が続けている長崎港ウォッチング(監視行動)では、今年の長崎造船所への接岸数は延べ十二隻、昨年から接岸していて今年出港した三隻と合わせて延べ十五隻が入港しています。定期検査、武器・エンジンのチェック、修理などに三〜四ヵ月が必要なため、いつも数隻の護衛艦が接岸しており、平和宣言都市・長崎の港にふさわしくない異様な光景がそこにあります。                           トップへ  

 3.戦時派遣自衛隊のドッグ
 今月十日、三菱長崎造船所の立神岸壁に、海上自衛隊佐世保基地所属のイージス艦「こんごう」が接岸しました。四月十日から八月二十二日までインド洋へ戦時派遣されていたものです。
 米英軍のアフガン攻撃による民間人の死者数はすでに同時多発テロで亡くなった米国人の数を大きく超えています。この報復戦争に側面で大きく加担してきたのが、テロ対策特別措置法で初めて戦地に派遣された海上自衛隊の軍艦でした。
 二〇〇一年十一月九日、最初の三隻が佐世保基地からインド洋へ向け出航しましたが、その先陣を切ったのは長崎造船所で建造された護衛艦「きりさめ」でした。
 以降、今日まで十三次にわたり、延べ三十一隻もの軍艦が戦時派遣されました。佐世保基地からの派遣は延べ十一隻、建造所別では長崎造船所が延べ十隻で、いずれも最多数です。
 海上自衛隊はこれまで、インド洋で米国を中心に十ヵ国の軍艦に合計三百二十二回、約三十三万四千`gの燃料を無償で提供してきました(十二月十五日現在)。燃料を補給する間、補給艦は相手艦とパイプでつながれたまま併走することになるため、その間の護衛をするのが護衛艦の役割とされています。
 しかし護衛艦には、「リンクZ」とよばれる情報共有機能があり、それぞれの艦船がとらえた目標の位置や高度、速度、進路、敵味方の別といった戦闘情報を相互交換することができます。戦闘中の米軍には護衛艦がつかんだ情報が自動的に流れる仕組みになっており、それを米軍が攻撃目標とすることは十分あり得ることです。
 イージス艦「こんごう」には、より高性能の「リンク_」とよばれるシステムが搭載されており、周囲五百`b範囲の戦闘情報をリアルタイムで米軍に提供することができます(「朝日」Q年[月6日付)。
 インド洋での自衛艦の詳細な行動は明らかにされていませんが、給油や戦闘情報の面だけをみても米軍の軍事作戦に組み込まれており、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に抵触しているのは明らかです。長崎港で建造された軍艦が、罪のないアフガンの人々を間接的にせよ傷つけていることを思うと胸が締めつけられます。
インド洋に佐世保港から出港し、帰国後長崎港で修理した護衛艦
番号 艦名 戦時派遣期間 修理点検期間
173 こんごう 03/04//10〜03/08/22 03/12/20
109 ありあけ 03/04/10〜03/08/22 03/09/04〜03/10/17
103 ゆうだち 02/07/24〜02/11/26 03/02/20〜03/03/31
169 あさかぜ 02/07/01〜02/10/29 02/11/28〜03/01/13
170 さわかぜ 02/02/13〜02/07/05 02/08/06〜02/09/19
157 さわぎり 01/11/25〜02/04/25 02/05/30〜02/07/12
144 くらま 01/11/09〜02/03/16 02/08/09〜02/09/24
104 きりさめ 01/11/09〜02/03/16 02/03/26〜02/05/13

 「こんごう」の入港で、佐世保基地からインド洋へ戦時派遣された護衛艦すべてが、帰国後、点検・修理のために長崎港にやって来たことになります(表参照)。戦地での傷をいやした軍艦は再び次の任務についていきます。                                  トップへ
4.北朝鮮の「脅威」利用し
  アメリカは他国からの弾道ミサイルに対して、海上配備型迎撃ミサイル(SMD)を搭載するイージス艦、地対空誘導弾パトリオット(PAC3)を二〇〇四年から実戦配備します。
 十九日、石破防衛庁長官は航空自衛隊にイラクへの派兵命令を出しました。同日、日本政府は北朝鮮のミサイルなどに対応するとして、アメリカのミサイル防衛システムを導入することを閣議決定しました。二〇〇七年から四年間かけて、四隻のイージス艦をSMD用に改修する工事が行われる予定です。すでにミサイル防衛経費として来年度財務省原案に千六十八億円が計上されており、イージス艦「こんごう」の改修とミサイルの購入(一発二十億円ともいわれる)などに当てられることになっています。
 三菱長崎造船所では「こんごう」など三隻のイージス艦を建造してきました。石川島播磨重工で建造したイージス艦「ちょうかい」も佐世保に配備されていることから、点検・修理は長崎造船所が手がけるなど、海上自衛隊が保有する全四隻のイージス艦に深くかかわり、改修工事を一手に引き受ける可能性が高いといわれます。
 さらに同造船所は、ミサイル防衛対応の新型イージス艦二隻のうち一隻を受注しており、〇七年春に佐世保配備することになっています。
 長崎港にとって高速ミサイル艇も重大です。
 今年三月、二隻のミサイル艇が海上自衛隊佐世保警備隊(崎辺地区)に配備され、第三ミサイル艇隊が編成されました。北海道・余市、京都府・舞鶴に次ぐもの。九九年の能登沖「不審船事件」を契機に設計変更となった、はやぶさ型高速ミサイル艇です。
 十一月中旬、長崎港に高速ミサイル艇の五番艦「うみたか」が入港し、同造船所岸壁に接岸しました。三菱下関造船所で建造されたものです。入港目的は試運転とミサイルの発射試験などといわれています。高速ミサイル艇の長崎入港は五隻目で、来年一月には六隻目の「しらたか」が入港し、この二隻のうちどちらかが佐世保基地に追加配備となります。
 高速ミサイル艇には主砲(直径怫_弾)や対艦ミサイル(射程百`)など、少し前の世代の護衛艦に近い攻撃能力を備えています。しかもレーダー波を発射元へ直接反射させないステルス構造が船体だけでなく主砲にも施されるなど、機敏性・隠密性の高いまぎれもない戦闘艦です。
 いま日本の自衛隊は専守防衛の創設理念をかなぐり捨て、アメリカ軍を支える軍隊へと変えられようとしています。そのために北朝鮮の「脅威」やテロ事件が最大限に利用され、長崎港の軍事加担もいちだんと強まっています。被爆地長崎で平和憲法を守り、有事法制の発動を阻止し、再び日本を戦争国家にさせないための運動強化が緊急に求められています。
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連載  
佐世保基地を補完する長崎港

 ながさき平和委員会事務局長 冨塚明さんに聞く
1.すすむ有事法制の先取り
2.イージス艦から魚雷まで
3.戦時派遣自衛隊のドック
4.北朝鮮の「脅威」利用し
「しんぶん赤旗」03/12/24〜27日