長崎県は先の県議会で「経営が赤字だから」「地域医療は民間でもできるから」と、県立成人病センター多良見病院(長崎県多良見町)の民間移譲計画を明らかにしました。同病院が担っている結核病棟は別の県立病院(精神科)に移管し、あとはすべて民間に丸投げするというもの。周辺地域からは、「住民の声に逆行している」と、自治体や町ぐるみの反対の声が広がり大きな問題となっています。

 「もっと地域の知恵を集めて経営改善に努力してほしい。『赤字だから』といきなり民間にという考えは、病院利用者としては納得できない」と話すのは、同病院を時折利用する多良見町の主婦・関山美津子さん。
 となりの諫早市にある大きな病院の関係者や、周辺の開業医も、「救急患者にも十分対応できるようにして診療科目など
特徴あるものにすれば十分やっていける。県立病院として存続すべきです」「いざという時に対応し、支えてもらえる中核病院が近くにあるから安心なんです」と異口同音に語ります。

 ことの発端は二年前、日本共産党以外のオール与党が行財政改革と称して「意見書」を決議し、知事が病院や福祉施設の見直しを「行革大綱」に盛り込んだことです。
 しかし、昨年六月の県議会で金子原二郎知事は、日本共産党・西村貴恵子県議の質問に対し「地元自治体や地元関係者の意見を聞き方針を決める」と答弁していました。
 地元の多良見町ではこの答弁を信じ、西平隆町長と川崎盛一議長の連名で「さらなる機能拡張を図り県央地域の医療拠点として充実させ、県立病院として存続を」と県に要望書を提出。「存続を求める会」や同町内の区長会は、わずかの間に全世帯数の一・三倍にあたる約八千人の「存続署名」を町内で集めました。

 存続を求めるのは多良見町民だけではありません。諫早市など周辺自治体の首長や福祉関係者、医師会、歯科医師会、薬剤師会などの医療関係者、学識経験者、住民代表など、知事から委嘱された三十三人の委員で構成する県央地域保健医療対策協議会でも、圧倒的多数の声として「県立での存続」を確認。「みんなで知恵を出そう」と前向き発言も相次ぎました。
 ところがこの間、説明のために多良見町議会や同区長会を訪れた知事らの姿勢は、「県の方針を一方的に伝えるだけ、協議どころか地元との合意抜きに方針を押し付ける問答無用の態度だった」(田中次子町議)と、同席した議員らは憤慨、県の非民主的態度を批判しています。

 同町の西平町長は、五十年近く住民に親しまれてきた病院の歴史にもふれ、「もともとこの病院は町がまだ喜々津村だっ
た時、村として山や畑だった個人の土地を買いあげ、何カ月もの労働奉仕で造成、犠牲者も出しながら必死の思いで誘致したものです。公的病院は営利でなく福祉としての医療機関であり、地域住民の生命と健康を担ううえで欠かせない」と語りました。

 日本共産党はこの問題を県議会でも町議会でも繰り返し取りあげ、存続を求める宣伝や署名をおこない、住民から「充実・存続」を求める訴えがたくさん寄せられました。圧倒的多数の住民の切実な声を無視し、あえて民間移譲するという県の姿勢は、医療・福祉分野での行政の責任を放棄するものといわれても仕方ありません。

この問題を県議会でとりあげ、存続のため努力してきた西村貴恵子県議の話

 成人病や結核などはますます増え、県立病院の役割は大きくなっています。県立と民間医療の大きな違いは、県立なら不採算部門や高度医療部門について補助金が出せること。そのために国から地方交付税の手当てもされており、民間病院では交付税はありません。
 諫早湾干拓事業など不要不急の公共事業見直しには手を付けず、医療・福祉にしわ寄せして県民の命を削るような冷たい県政は許されません。今後とも県立病院存続に全力をあげます。
県立多良見病院
民間移譲計画 納得できない
「しんぶん赤旗」1月15日特集記事 田中康記者