2003年11月28日(金)「しんぶん赤旗」

有明海ノリ不作 過去最悪に

宝の海戻せ 漁民切々

諫早干拓 やめさせるしかない


 有明海産のノリは、二十四日までに沿岸各県で初入札が終わりました。色落ちなどで軒並み過去最悪の販売枚数・金額に落ちこんでいます。二〇〇〇年の大凶作よりもさらに深刻な事態です。本来は収穫の最盛期にあたりながら、海からノリ網がいっせいに撤去され、一部の地域で数年ぶりに再開したタイラギ(二枚貝)漁も、熊本県荒尾沖でタイラギのへい死が急増しています。海も、漁民も、瀬戸際に追い込まれています。(西部総局 山本弘之記者)


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佐賀県有明海漁連のノリ初入札=20日、佐賀市

 「もうお手上げだ」「(首をつる)枝振りのいい木を探しとってください」――ノリの初入札会場で、漁民たちが口々にいいました。

 最大の入札会、佐賀県有明海漁連の会場には二十日、全国のノリ問屋や商社四十八社、約三百人が参加しました。全国のシェアの四割を占める有明海のノリのなかでも、「初摘み」は、味や口当たりでとくに高い人気があります。しかし、この日は仕入れ担当者も厳しい表情を隠せません。

 「悪いですね。三十数年やっているが、こういう年はなかった」。商社の仕入れ担当取締役は、こう語りました。

■昨年の半額

 販売枚数は一億一千八百万枚余。販売金額も十七億五千万円を切りました。これは昨年の半額以下。一九七三年以来過去最悪です。

 江口浩介参事は「ノリ網一枚あたり、昨年九百枚の収穫が、今季は四百−五百枚。なかには百−二百枚しか摘んでいない生産者もいます」と話します。

 ノリシーズンの終わる来年三月ごろまで約十回の入札を予定しているものの、こんごの生産も見通しは暗い、と関係者はいいます。

 「この四年間のうち三年も悪い。立ち上がろうにも立ち上がれない」

 南川副漁協の漁民(55)は「二〇〇〇年のときの借金が返せず、たまる一方だ」とつぶやきました。

 ノリ養殖は、秋芽と冷凍の二回に分かれ、ノリが三、四週間で十−十五センチになるたびに、摘み取りを繰り返します。

 一年分の生計を稼ぎ出すには、秋芽で五百万円、冷凍で千五百万円の売り上げをあげるのが普通でした。

 しかし今回の初入札の売り上げは、漁民一戸あたり百万円程度。これでは、すでに漁期前に資材や漁船整備に百万、二百万円かかっている代金の支払いに事欠き、当座の生活費も残りません。

 ほとんどのノリ漁民が、全自動乾燥機など数千万円にのぼる設備投資をし、一人あたり数百万から一、二千万円の借金を抱えています。

 「やめるにやめれない」。佐賀県川副町の川崎直幸さん(54)はいいます。「ノリの太か(多額の)借金は、サラリーマンの収入では返せない。ノリでしか返せない」

■期待の貝も

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諫早湾干拓の中止を訴える漁民たち=17日、長崎県高来町

 かつては家族十数人が生活できる収入があり、港は活気に満ち、後継者不足や嫁不足の心配のなかった地域が一変しました。

 熊本県荒尾市のタイラギ潜水漁業者、西川幸久さん(49)は訴えます。

 「ノリの大不作が相次ぎ、期待のタイラギは死に、アサリはとれず、魚もとれず、有明海に残ったのは仕事を失った漁師だけだ。そして、私たち漁師も有明海を去らなければならなくなる」

 海が変わった、原因は諫早湾干拓だ――。有明海に生きる漁民がこぞって言い続けているにもかかわらず、干拓工事を強行する小泉内閣の態度は、海も漁民も死ぬのを待っているとしかいいようがありません。

 「元の宝の海に戻りさえすれば、自分で生活できる。しかし、このままでは有明海の漁業は終わってしまう。私たちには時間がない」

 福岡県大牟田市のノリ漁民、松藤文豪さん(46)の叫びは、漁民すべての思いです。

■広がる原告

 漁民たちは各地でネットワークや漁民の会をつくって結束し、抗議の座り込み、要請・陳情、海上デモを繰り返し、そして、工事差し止めを求める裁判にも立ち上がりました。

 漁民と市民が共同して佐賀地裁に提訴した「よみがえれ有明訴訟」は、原告が八百五十人に広がり、仮処分の決定を来春早々にも勝ち取るかどうかまで迫っています。

 しかし十七日現地を視察した亀井善之農水相は「二〇〇六年度の完成に努力したい」とのべ、あくまで干拓事業に固執しています。

 「諫早の工事を止めるまで、あきらめられんですよ」。熊本県荒尾市の前田力さん(54)は、いいます。

 「宝の海を取り戻したい一心でやっていますから」


仁比参院比例代表候補 きょう現地調査

 有明海の深刻な事態を受けて、日本共産党は二十八日、仁比そうへい参院比例候補を先頭に、福岡県委員会・県議団らが、現地調査に入り、漁連や漁民と懇談します。

 仁比候補は、「よみがえれ有明訴訟」弁護団の一員として、諫早湾干拓事業の中止に全力をあげ、漁民の生活と経営を守るために、国や自治体に緊急対策を求めてきました。