公立保育所の民間委譲問題
 行政の公的責任はたせ
 長崎市が保育の民間移譲を打ち出したことで、市民の間に、「少子化対策といいながら公立保育所をつぶすのはおかしい」「財政難を子どもにしわ寄せすべきでない」との声が急速に広がっています。保育所の父母をはじめ、保育士や市民でつくる「長崎の保育を充実する会」などが集めた、公立保育所の民間移譲に反対する署名は、一カ月で三万人分を突破しています。(長崎県・田中康記者)

 「長崎の未来を担う子どもたちを育てる事業のどこが無駄なのか」

 長崎市西部の住宅地にある市立福田保育所。保護者の会の松田聡会長(31歳)は、一月十九日に開かれた同保育所の民間移譲説明会で、市幹部に父母の切実な思いをぶつけます。「市の説明は保育のことでなく、金のことばかり」「地域や父母らの声は聞かず、移譲のための一方的説明は許されない」と、計画への怒りや疑問の声が次々に飛び交いました。

子どもは宝、民間移譲は市の責任放棄

 長崎市が市立保育所の民間移譲計画を発表したのは昨年暮れのこと。「今後運営費が増大する」からと、市内十二の保育所のうち茂木保育所(〇三年四月)と福田保育所(〇五年四月)を民間法人に譲渡するという計画です。「広い地域に一カ所の保育所しかなく、待機者があり、譲渡後の運営安定が見込まれる」との理由でこの二カ所が選ばれました。
 民間移譲とは、建物や設備、運営までのすべてを、民間にほぼ無償で譲渡するもの。公的保育事業の民間への「丸投げ」そのものです。
 保育経験二十五年の保育士・寺田暁子さんは、「保育所は子どもを預けて遊ばせておけばよいという所ではありません。子どもは親だけでなく、市や地域にとっても宝。リストラ・失業など両親が苦労している時だからこそ、公的保育が必要」と強調します。
 民間移譲が二カ所にとどまる保障はありません。地方自治体が公的保育の責任を放棄すれば、やがてそれは学童保育、学校教育へと広がります。
 「市立保育所でたいへんお世話になった」という宗田美智子さん(45歳)ー仮名−は、「子育てや保育経験豊かな先生方がいて、子育ての悩みもいっぱい聞いていただいたんです。公立だったからできたこと」と、公立だからを繰り返しました。

公的保育は必要コスト。民営化しても自治体の財政負担は減らない

 「公立はコスト高」と言われるのは、働く保育士の勤続年数の差によるものです。民間保育所の全国平均は九年、市立保育所は二十三年。民間・公立とも、保育士の年齢構成が同じならコストの差はありません。
 人生の土台を築くうえで幼児期はもっとも大切な時期。子どもの発達年齢に即したきめ細かい保育が欠かせません。
 保育所の役割からすれば、子育ての体験を持ち、豊かな保育経験をつんだ保育士は不可欠です。その上で若い保育士とベテラン保育士の交流がバランスよく行われてこそ、すぐれた保育を継続することができます。
 奈良女子大の中山徹・助教授は、保育所民営化で逆に市の負担が増えた
高知県南国市の例をあげ、「公的保育は社会的に必要なコスト。民営化した保育所のコストは下がっても、自治体全体の財政負担は減らない」と指摘しています。

日本共産党・中田ごう長崎市議の話

 長崎市は、歴史的にカトリックや寺院関係者が保育所を設置するなど、他都市に比べ民間保育所の比率が高く八割を超えています。いま保育所待機児童は三百人にのぼっており、市は数少ない市立保育所の公的運営に努力すべきはもちろん、公的保育所を増設して父母の期待にこたえるべきです。
「しんぶん赤旗」2002年2月7日付けより