前田さんの訴えの正しさ裏づけ。カラ出向の全容解明こそ真のSSK再生の道

 厚生労働省は二十一日、佐世保重工業(SSK)が自社の従業員を下請け業者に出向したように見せかけ、「中高年労働移動支援特別助成金」(出向助成金)を不当に受け取った問題で、「制度の趣旨を踏まえれば不支給とすべきだった」と、国の対応にも不備があったことを認めました。
 これは、「出向は名簿だけで実体はなかった。助成金は出向者の賃金として吸い上げられ、それに見合う仕事も発注されなかった」とSSKを提訴した、元下請け・前田工業の前田和則さんの訴えの正確さを裏付けるものです。
 SSKは、会社ぐるみの「教育訓練」偽装で給
付金三億七千万円をだまし取ったことはあっさり認めましたが、当初から狙っていた十七億円を超える「出向助成金」の不正受給については、「国の指導を得ていた」ことを唯一の根拠として「適法」と強弁しています。
 十五日には、「カラ教育」の詐欺容疑に問われた姫野有史元社長ら二被告の初公判が開かれ、検察側の冒頭陳述は、「(出向助成金は)形式的な出向で支給する取り扱いがされているから、(教育訓練の)給付金制度も甘い制度だろうと考えた」とSSKの確信犯的動機を指摘。国の甘い態度につけ込んで不正受給を実行したものであることを示唆しました。
 これらの補助金不正受給に、政治家が口利きしていた疑惑も重大です。SSKは小山孝雄元労働政務次官(別件で実刑判決・控訴)の秘書に、「教育訓練」計画書の申請が期限切れで受理されなかったことから、国への働きかけを依頼。後日、県も二週間さかのぼってこれを受理しました。同秘書は、「出向」対象者の一部が対象外となったことでも長崎雇用促進センターなどに照会したとされています。
 SSKが悪用したこれらの制度は、いずれも国民が納めた労働保険の保険料を基金としたもの。国民に対しては保険料の引き上げと給付削減を押し付けながら、他方で制度の趣旨をゆがめた大企業が「赤字決算」の補てんに悪用し、国がそれを見逃すといった構図が浮かび上がります。このようなことが許されてよいはずがありません。
 SSKを訴えた前田さんが、「私の怒りは、ここに至っても厚生労働省がSSKを告訴しないこと。このままの幕引きは許さない」と繰り返すのも当然です。
 佐世保市民はこれまで、SSKは自浄能力を発揮しまともな企業として生まれ変わってほしいと願ってきました。しかし、岡田新体制に交代してもSSKの体質に変化は見られません。

 勇気をもって告発した前田さんには謝罪どころか、工事の未払い代金すら払おうとしません。「『カラ教育』はごまかせなかったが、『カラ出向』は適法」とばかりに開き直り、前田裁判も争う構えです。「下請け・労働者いじめをなくし、補助金違法取得疑惑をただす会」(山下千秋代表)の再三の「申し入れ」にも答えません。
 ただす会の山下代表は、「SSKの下請け・労
働者いじめの経営体質がどう変ったかを抜きに再発防止はない。前田裁判でその実態を社会的に明らかにし真の再生をめざしたい」と語ります。
 「カラ教育」の実態に続いて「カラ出向」問題の全容を解明するには、「カラ出向」が、企業の上下関係を利用し下請けに犠牲を押し付けてきた悪しき結果であること、いっさいの責任はSSKにあることを前田裁判で明らかにする以外にありません。(長崎県 田中康記者)
SSKの補助金不正受給、「制度の趣旨から不支給とすべきだった」と国が見解
2002年10月25日 「しんぶん赤旗」