再び被爆者を戦争に巻き込む
衆院有事特別委員会の地方公聴会での長崎総合科学大学前原清隆助教授の陳述 
 衆院有事法制特別委員会が7日に長崎県佐世保市で開いた地方公聴会で、前原清隆・長崎総合科学大学助教授が行った意見陳述(要旨)は次の通りです。
 長崎の大学で憲法の教育と研究に関わるものとして、常々心に刻んでいる言葉があります。
 「不戦の誓いを日本国憲法から取り外せば…何よりもまずわれわれは、アジアと広島、長崎の犠牲者たちを裏切ることになる」というものです。
 長崎原爆被災者協議会の理事会において、(有事)法案反対の決議があげられています。理由として「私たちは、二度と私たちのような戦争犠牲者がつくられるようなことを、断じて許すことはできない」という観点から、「これらの法案が、再び私たちを戦争に巻き込むのではないかと、おそれるからです」と述べています。
 注目せずにいられないのは、「周辺事態」は「武力攻撃事態」に含まれると政府が答弁していることです。周辺事態法等によって、米軍の戦闘作戦行動に日本が後方支援を開始すると、「武力攻撃が予測される事態」と判断され、地方自治体や民間の動員がなされるからです。
 今年1月のブッシュ大統領の「悪の枢軸」発言にも、小泉首相は他国の指導者とは違って「理解」を示しました。一方、大統領は「対テロ戦争では、積極的な先制攻撃が必要」と演説しました。しかも、ブッシュ政権は核兵器の使用の敷居を下げ、通常戦力に近い兵器として組み直そうとしており、イラク、朝鮮、台湾にかかる事態というまさに日本にとって身近なケースにおいて、核兵器が使用される可能性が最も高いとされています。
 被爆者の方々の「想像」は、さすがに鋭いというべきかと思います。
 法案は、「武力攻撃事態」の認定などを国会の審議を経ずに、事実上内閣総理大臣と安全保障会議に参加する少数の閣僚にゆだねています。国会の審議抜きに、実質的に決定されるというようなことが、国会の機能と責任に照らし、認められることでしょうか。私は、民主主義に著しく反すると考えます。
 戦争に関わる決定を少数閣僚にゆだねることが出来るかいう懸念は、残念ながら現下の情勢ではリアリティーを持つに至っているのではないでしょうか。
 インドとパキスタンとの緊張が報じられ、最悪の場合、核戦争で1千200万人に達する死者が懸念されているという最中に、非核三原則の見直し発言が、官房長官によってなされたからです。防衛庁も、情報公開請求者の個人情報リストを組織ぐるみで作成していたという重大問題を引き起こしました。
 一般国民も、官房長官の発言や防衛庁の事件に直面し、法案は少なくとも今は、制定の時期としてふさわしくないと考えているはずです。それだけでも、廃案にされるべきだと思います。
                 2002年6月11日 「しんぶん赤旗」