SSK公金不正取得
 地に落ちた企業モラル
2002年3月14日から17日まで、「しんぶん赤旗」で連載された記事を紹介します。
 実態のない「出向」や「教育訓練」の偽装で、国の助成金を不正受給していた疑惑が浮上した造船会社準大手の佐世保重工業(SSK、本社東京)佐世保造船所(長崎県佐世保市)。姫野有文社長は不正を認めざるを得なくなりました。その手口も下請け業者や労働者の弱い立場につけ込んで、公金をかすめとるという極めて悪質なもの。SSKで何がおきているのか


調査の日は「受講」風景を演出


  姫野社長も全面的に認めざるを得なくなった訓練給付金の不正受給疑惑とは。
 たとえばSSKは、二〇〇〇年度に実施した訓練により、国の「生涯能力開発給付金」を約二億二千六百万円(三百一人分)受給しました。ところが、このころの訓練にたいし、「実態がなかった」との証言が相次いだのです。
 そのやり方は、県の調査の日には、社員を集め訓練を演じさせるという確信犯的なものでした。労働者らの証言によるとSSKは、二〇〇〇年十一月の調査当日に、普段は通常の業務に従事する訓練対象者少なくとも数十人を会議室に集めて「受講」風景を演出。集められた労働者は、調査の県職員が来るまでは、雑談などをして待機していたといいます。実習でも演技を指示させられた人もいます。
 労働者の間では、「会社は本当の教育はせず、ウソで金をかすめとる気か」「こんなことをしていいのか」などとささやかれていました。
 ある元社員の男性の場合、県の調査の直前に、上司から教育資料をつくるよう指示されました。男性は、「悪いことに加担させられる」と感じつつも抵抗できず、一週間ほどかけて資料をつくることになったといいます。
 この男性は、訓練日程表で〇〇年秋から半年間の訓練の講師に指名されていますが、「実際に講師をしたのは、県の調査が来た日の一回だけだった」と証言します。
 こうして不正受給した助成金は、〇〇年度、〇一年度にわたり三億七千七百万円にも及びます。「みんな不正を知っているけど言えなかった。言えば飛ばされたり、会社からいじめられたりする恐怖感があった」と、男性は語りました。
 SSK社員の平均年齢は四十七歳と高め。労働者のなかには、退職金が満額になる「勤続三十五年、五十五歳」を目標に、「あと少しだから」と会社の横暴に耐えている雰囲気もあるといいます。
 しかし、元下請け業者の提訴と助成金疑惑をきっかけに、「SSKによる下請け業者・労働者いじめをなくし、補助金違法取得疑惑をただす会」が結成され、現役労働者からも激励の声があがり始めていました。社員や元社員たちは、「目先だけのやり方ではもうSSKはもたない」「まともなSSKに戻ってほしい」と口々に話しています。

「カラ出向」で助成金吸い上げ
「カラ出向」による助成金不正取得の手口はいっそう入り組んでいます。
 
 SSKとの間で結んだ「出向契約」は実態のない「仮装」だったとして、SSKに手形の返還などを求めて提訴した元下請け業者・前田工業のケースはこうです。
 前田工業は、SSKから頼まれて、@前田工業は出向者を受け入れ給与・賞与の負担をする Aその代わりSSKは前田工業に出向者の給与・賞与相当の発注をする|との契約を結びました(九六年六月から一年間)。
 その際出向者を受け入れた企業に給料の半額が支給される「中高年労働移動特別助成金」を受け、運転資金にあてられると説明を受けます。ところが実態は。
 @出向は名簿があるだけで、実態はまったくなし A出向の実態がないにもかかわらず、SSKが助成金支給を申請、下請けが七千三百六十万円の支給を受けます。BSSKは下請けに対する給与・賞与として。約二億一千八百万円を請求しながら、それに見合う工事代を実際に支払ったのは約一億四千万円でした。
 SSKの側は、助成金を下請けから吸い上げ、自社社員の給料をまかなった格好です。「SSKから五十人の『出向』とは名簿だけで、だれも来やしなかった。それなのに国の助成金を受け取っていいのか。詐欺の手伝いまでさせられた思いだ」と前田社長はいいます。
 強くモノをいうにも、受注を依存している下請け会社としてはもともと弱い立場です。「私の場合、こんなことを明らか にすれば、SSK従業員、下請け業者がどうなるかだけが心配だった」。前田社長は苦悩の末、提訴と助成金問題の公表に至りました。

 前田工業を経由してSSKに還流させる形となった助成金は七千三百六十万円。では、他の下請けとの関係はどうだったのか。疑惑は一気に広がりました。
 SSKは十二日の記者会見で、当時、十九社に約八百七十人、下請けに約十七億二千五百万円が給付されたことを明かしました。
 しかし、不正受給を認めたのは、そのうち東京本社に在籍しながら出向扱いになっていた十八人と、海運会社に出向扱いされていた診療所の看護婦三人の合計約一億円分だけです。別の下請け会社に「出向」になっていたSSK社員も、「『出向』といっても形だけで、仕事はいつも通り。指揮・監督はSSKのままだった。仕事場が同じだった別の会社への出向組も同じだった」と証言します。
 元下請けの鉄工会社の副社長はいいます。 「うちも前田さんと同じような契約をして、七十数人の出向ということでしたが、出向組とはミーティングすらしたこともない。当初SSK側にただしたら、『これでいい』といわれました。SSKにノーはいえない。結局、SSKだけが助成金の還流でもうかったんです」

「下請けいじめそのもの」
 
昨年八月、「明日からの仕事は○○社にさせる。道具を片付けてくれ」と佐世保重工業(SSK)・姫野有文社長から言い渡された一次下請の前田工業。「予告なしですよ」と、同社の前田和則社長は下請契約を解消された時のことをふり返ります。
 この二月末で業者取引の終了を通告された別の下請業者も、「何の説明もなく、多額の未払いがあるのに一方的仕打ちを受けた」と、SSKの横暴ぶりを話しました。
 SSKによる下請け代金の遅配・未払いは日常茶飯事でした。

 一九九九年五月、前田工業は新造船の居住部の艤装(ぎそう)工事を五千四百八十時間・単価二千四百円で請け負いました。依託する際に値段を指定する「差値」発注でした。下請け保護法で「買いたたき」と問題にされているもので、これだけの予算しかないといわんばかり。協議の余地もありませんでした。
 七枚の小さな注文伝票に書いてあるのは工事名称や簡単な作業内容、納期、請負時間だけ。工程表もなければ詳細図面も作業仕様書もありません。「それでも受け入れざるを得ないのがSSKの下請業者の立場ですよ」という前田さん。見積りもまともにできないような注文伝票ですが、それでも見積書には「手直し・追加工事は別途協議」と記されていました。
 前田工業が実際に工事にかかると信じられないことが次々に起こりました。SSKの責任で正確につくられているはずの取り付け部品が、取り付け場所の寸法や形状と合わないため、部品の作り直しが続出。特殊加工された高価なパイプなど、廃棄部品の山がいくつもできました。適合しない部品の取り外し、現場での手直し、材料調達、再度の取り付けなど契約外の作業が、SSK側の指揮のもとに続きました。工事にかかった時間は一万一千時間を超え、契約時の二倍以上でした。SSKは、この千三百万円にものぼる、明々白々の追加・手直し工事を契約外と認めません。
 事情を知る複数の業者幹部は、「こんなことでどうして下請業者がやっていけますか。改善方を話しても聞くどころか、逆に『もう仕事はない』と契約解消をいわれるだけ」「コスト削減の50(ゴーマル)運動と声高にいうが、10%のコスト削減でも業者はもたん(耐えられない)ですよ」といいます。
 こんなやり方で赤字を押し付けられ、どれだけの業者が苦しみ、泣かされてきたことか。元SSKの幹部社員は、「それがSSKの下請けいじめそのもの」と話しました。

いま立ち上がらんば

 国の助成金の不正受給を認めた姫野社長は十二日の記者会見で、「担当部長の指示だった」と自らの関与を否定しました。
 ニュースを見た関係者はその態度にあきれ顔。SSKの鉄工の仕事をしていた福田為夫さんは、「それは違う。社長の許可がないと何もできんのが今のSSK」ときっぱりいいます。

 社長室があるビルに出入りしていたある下請業者の幹部も、「管理職をどなる声が一階まで聞こえるんです」「社長が自ら部下をどなりちらすのは日常茶飯事、鉛筆一本買うのも社長のチェックが必要だった」とその話しを裏づけました。県の担当者も「組織的な不正行為」だったことを議会で認めています。
 姫野氏が同社の社長に就任したのは九八年のこと。その後「よその会社では考えられないことが次々起こった」と話す関係者は口をそろえます。
 同社の中堅社員は、「いまの社長がやっているのは、『社是』に反することばかり」とあちこちの職場で言われていたとして、コンピューター化が進んでいる時代なのに、情報システムの職場でさえ私物のパソコンを使わせたり、残業の合計が六〜八時間になると、一日休ませて残業賃を払わないようにした時期もあったこと。安全担当者が少なく、足場やはしごのかけ方が中途半端など、安全対策の手抜きも不安だったことなどを振り返りました。
 佐世保市内で働く労働者が発行している職場新聞「働く仲間」は、SSKの実態を、「社外からの電話の取次ぎもできない。デスクワークがあるのもかまわず『現場に出ろ』と社長の一声。定年前の労働者を無理にやめさせ、下請けや子会社に押し付ける。そのため、腕のいい労働者が次々に近郊の造船所に流れていった|」と書いていました。
 二月二十八日、「SSKの下請業者・労働者いじめをなくし、補助金違法取得疑惑をただす会」の結成総会では、参加者から「SSKの手口は詐欺ではないか」「仕事をしたのに下請け代金を値切ったり払わないのは許されない」などの声が次々に飛び出しました。
 会の世話人で、勤続三十七年の元SSK社員・菊川和信さんは、「SSKには今も愛着があります。SSKだけ仕事がないのは不況のせいと思っていたがそうではなかった。正常なSSKにするため、今行動に立ち上がらんば後悔する、家族にも胸が張れない」と、たたかいに立ち上がった自らの心情を語りました。
 佐世保市の原田香鶴子さんは、「雪印などが大問題になっているとき、『SSKよお前もか』という気持ちですよ。毎日苦労している国民の税金をだましとるなんて、信じられないですよ」と、声が大きくなりました。