池島炭鉱閉山に広がる衝撃 
 「しんぶん赤旗」九州面 10月26日〜27日
労働者と自治体に広がる怒りと苛立ち。大きくなる「会社は社会的責任を果たせ」の声 

 二〇〇六年までは存続するはずだった長崎県外海(そとめ)町の池島炭鉱。「閉山はない」と繰り返していた松島炭鉱株式会社(田代勉社長=福岡市)は十二日、突然、「十一月二十九日付での閉山」を発表。職場はもちろん、町内・県内に大きな衝撃が走りました。
 発表から半月、直接の影響を受ける労働者と住民、自治体の苦悩を追いました。(長崎県・田中康)

「雇用策もないひどい提案」と労働者の怒り、何の支援もない下請けや関連会社の従業員ら

 池島炭鉱では約六百五十人の本工労働者と、下請け労働者約四百六十人
が働いています。閉山提案では全員が解雇の対象です。
 しかも、下請け労働者四百六十人を含め、他の関連会社や島の中小商店の従業員など約一千人が、何の支援も受けられないまま職を失うとみられています。
 突然の閉山提案を論議した松島炭鉱労働組合(井手口二郎代表)の代議員会では、「生き残りに協力してきたのにひどすぎる」「雇用対策がない」など、怒りの声が続出しました。
 掘進現場で長く働いてきた四十八歳の労働者は、「昨年の坑内火災後の現場を見て『長くはない』と思ってはいたが、今後の生活や就職のことなど現実に考えたら不安がいっぱい。25%の賃金カット分も返してもらいたい」と、怒りをあらわに語ります。
 組合も、会社に対して「会社存続のためにあらゆる努力・協力を行ってきた組合員の気持ちを踏みにじるもの」「退職条件、雇用対策、地域振興などきわめて不十分」との態度を表明。親会社(三井松島産業=多河喜史社長)の支援や協力が不透明だと追及しました。
 職場の怒りは、提案された内容を三井三池(九七年閉山)と比較すれば歴然としています。
 勤続別の退職加給金は半分以下。最低補償金や障害見舞い金、予告手当
もなく、就職活動のための手当てや諸費用の提示すらありません。
 「働きがいある職場」と宣伝して労働者を集めながらコスト削減を追い続け、会社存続を盾に賃金カットまで強行、いざ閉山となれば労働者の雇用や生活の見通しさえたてない。こんな「あとは野となれ山となれ」式の企業のあり方が許されるはずがありません。
 同町にあるフェリー発着場近くの商店主は、「子どもさんを抱えた家庭はたいへんですよ。都合のよか時ばかりの会社じゃいかんですばい」と、島の方向を見つめていました。
 同町の国道沿いには、「池島鉱業所従業員募集中」の看板が、電話番号付きで今もしっかり立っています。

「会社は地域への責任がある。住民生活の補償を」の声
 池島は、外海町役場がある西彼杵半島の沖合い七`にある周囲四`の小
さな島。そこに町の人口の三分の一、二千三百人余が暮らしています。大半は池島炭鉱で働く労働者とその家族です。
 同町にとって最大の閉山問題は、池島に住む町民のライフラインの確保と、自主財源の四七%を占める炭鉱関連からの税収分の財源や人口流出をどうするかです。
 四十九年前、炭鉱がこの島に進出した時、会社は住民との間に、給水・送電に責任を負い、病院を開放するとの「覚書」を交わして開発を進めました。そのため、電力は自家発電(一部電力会社)、簡易水道は一〇〇%会社の海水淡水化設備でまかなってきました。
 しかし閉山提案では、病院は即日閉鎖。水道・電力については押し黙ったまま、住宅使用も最長六カ月間。このままでは住民がこの島で暮らせなくなるのは明らかです。
 提案直後から、こうした現実を見越して近隣町の空き住宅を問い合わせる声が相次いでいます。
 同町の担当者は、「最悪の場合は船で水を運ぶ事態もありえます。住民が住んでいる限り放置はできません。会社との話し合いが必要ですが、何せ突然の話ですから。人口がどうなるか見極めながらの対策になります」と困惑気味です。
 雇用問題も町としては打つ手がなく、国と県に支援をお願いするだけです。会社との関係では、当面の交渉をすすめる労働組合のがんばりに期待を寄せています。
 会社に対しては、町の基幹産業として、自治体や住民の協力を得て企業活動を行ってきたのに、「企業の論理だけで行動するのはあまりに身勝手」(町幹部)との思いが強くあります。
 山道幸雄町長が、「親会社は上場企業、地域への責任がある」と繰り返しのべているのは道理あることです。

国は、責任ある支援と、企業への指導強化を

 同町はこれまで自然と文化、石炭の町として、個性豊かな町づくりを目指してきました。しかし、この数年の間に二つの誘致企業が相次いで撤退、こんどは産業の柱であった「石炭」の二文字が消えようとしています。
 日本共産党の西村貴恵子県議は、「閉山の背景には政府の石炭切り捨て、石油依存のエネルギー政策があります。国策にほんろうされてきた過疎の町をよみがえらせるためには、住民の声を生かした活性化策を国の責任で支援すること。親企業に地域社会への社会的責任をしっかり果たさせるよう、行政指導を徹底することが必要です」と話しています。