有明海の高潮と洪水対策「佐賀の防災すばらしい」/干潟大切にし堤防も強化

長崎共同センターが23日視察(29日しんぶん赤旗九州・沖縄面)


 農水省による長崎県・諫早湾干拓事業の是非をめぐって、湾背後地にある諫早市や森山町などの「防災」が問題になっています。諌早湾の干潟を守る長崎県共同センター(高村暎代表)は23日、この問題解決の糸口を求めて佐賀県を視察しました。(長崎県・田中康記者)


低平地を守る八田江防潮水門

 最初に訪ねた八田江(はったえ)という川の河口にある八田江防潮水門(佐賀県川副町、76年完成)は、有明海の高潮対策はもちろん、ゲートの開度を調節し、隣接する排水ポンプ場(毎秒60トン)との連携操作で、天井川となっている内部河川や低平地を冠水や洪水から守っています。

 同県土木事務所の担当者は増水時の排水について、「フル稼働なら25メートルプールの水は5秒間で排水完了」と胸を張ります。佐賀市街地と周辺地域の雨水排除を担うこのポンプ場では、「一昨年の6、7月の集中豪雨の時でも60%の稼働で十分だった」といいます。

 漁を終えた青年がゲートを通りかかり、「このゲートとポンプがあるから農家も漁師も安心ですよ」と話しました。

佐賀市役所の水防災システム

 佐賀市役所は標高3メートルの低平地にあります。この二階に96年、有明海の高潮と豪雨による洪水被害を防ぐため「水防災システム」が完成しました。建設省(現国土交通省)と県、市が協力して情報を一元化し、佐賀市街地を含む周辺低平地の35カ所に監視・観測局をおき、水位や河川情報を瞬時にキャッチします。

 市は独自に気象情報システムも導入。一時間30ミリ以上の降雨時には3時間予測を発表して職員を配備させ、主要な樋門(ひもん)の開閉や制御にあたり、事前に水を落として水路の容量を確保します。「水防災システムで対策が早くなり、被害は飛躍的に小さくなった」という担当者。費用もOA機器設備は約1億円、年間経費は数百万円程度だそうです。

強度確保した東与賀海岸堤防

 諌早湾奥にある高さ4.5メートルほどの旧堤防は、潮止め堤防先にありきで、40数年間にわたって放置され老朽化しています。周辺住民が不安を訴えるのも当然です。佐賀県の場合は長崎県と違って、干潟を大切にしながら海岸線沿いの堤防を強固にしてきました。

 同県の東与賀海岸(東与賀町)では、旧堤防を7.5メートルにかさ上げし、強度確保のために海側に50メートル、陸側に100メートルの緩やかな傾斜を付けた堤防工事が今も続けられています。
 そこでは、水際に環境庁の絶滅危倶(きぐ)U類に指定されているシチメンソウの群生するスペースや、有明海と佐賀平野を一望する「干潟いこいの広場」がつくられ、観光スポットとしてもすばらしいものでした。

 視察した一人が、「すごい。防災を心配する諌早の人たちも、こんな堤防にすれば諌早湾の干潟はつぶさんですんだと思うよ」と、驚嘆の声をあげました。
 視察に参加した県共同センターの男性は、「防災は本来、国土交通省が独立してやるべき仕事。堤防のかさ上げやポンプの増設を長年放置したうえに、潟土しゅんせつの負担を住民に負わせ、安全への切実な願いを干拓事業推進の道具に使ってきた国の責任ははかりしれない」と感想を語りました。