長崎・島原半島/ノリに加え刺し網も藻類もダメ

猶予できない 生活支援、干拓中止

「しんぶん赤旗」九州面(3月7日)より


 ノリ養殖被害だけでなく、刺し網漁業や天然藻類の全滅など、長崎県の国営諌早湾干拓事業は、島原半島の伝統的漁業と漁民の暮らしにも深刻な影響をもたらしています。(長崎県・田中康記者)


調査終わり漁民おらんでは、政治家はいらん〜対応に批判

 「漁獲高の右肩下がりが続き、漁民の生活は明日をも憂慮される事態である」と、有明海の諫早湾口部に位置する長崎県島原市と有明町の漁業者約百人は、湾周辺と島原半島全域の二十二漁協でつくる南北高海区漁協組合長会(濱本藤壽会長)に、「漁業への影響の少ない排水門の開け方を大至急検討し、干潟を再生してほしい」と訴えて「要望書」を提出しました。

「生命保険解約した」「国民年金払えない」

 「要望書」の提出に参加した島原市漁協のAさんは、「干潟を取リ戻さない限り宝の海である有明海は戻ってこない。調査は大事だが、『何年もかかり、調査が終わった時にはもう漁民はおらんバイ』では政治家はいらん」と、今の国や県の対応を皮肉ります。

 漁業者の仕事や生活支援と、「諫早湾干拓事業の中止・中断」は深いかかわりがあり、どちらも猶予のできない緊急の声なのです。
 生活のために「生命保険を解約した」、「国民年金はもう掛けきらんと市役所に訴えたら、漁業の方ですねと言われた」など、その声は事態の奥の深さを感じさせます。

 諌早湾の干潟を守る長崎県共同センター(高村暎代表)には、これまで漁協の団結を考えて行動を控えてきたこれらの漁業者や、島原半島の漁民たちの声が数多く寄せられています。
 そのどれもが、漁業者の毎日の死活にかかわる深刻な事態にあることを生々しく物語るものです。

放出された汚水は満ち潮に乗って回遊

 有明海特有の速い潮流をうまく利用し、この周辺の漁場で盛んに行われてきた「刺し網漁業」は、事業による潮流変化で底層の流れが遅くなり、網がうまく流れなくなりました。それも一回で魚が四、五匹しか掛かりません。一方では、長さ2キロメートルにもなる刺し網にヘドロがべっとり巻き付き、洗ってもとれないのです。
 車えび用の刺し網の場合、堤防閉め切り前には月に二十日くらいが操業可能日数だったのに、いまは操業したくても十日くらいしか仕事になりません。

 刺し網漁だけではなく、かつてガザミ(ワタリガニ)の好漁場であった海域が、今では汚水の通り道となって壊滅的打撃となっています。
 有明町でタコ漁をしている橋本武さん(五三)は、「調整池の汚水が放出されるのは千潮の時。そのころは島原市以南の有明海では満ち潮が始まり、放出された汚水は島原沖付近で満ち潮にのって東西に拡散され、有明海を回遊して沈殿する」と、漁業者の目から見た実態を証言します。

 漁業者の要求に対し、平然として「工事は続行する」と書い放ち、第三者機関にゲタを預けて責任を回避しようとする政府。この瞬間も有明海の人為的汚染は進行しています。漁業者は声を荒らげました。「五十センチ先しか見通せないほどの重篤な有用海にだれがしたのか」、「こんなひどい汚水を流し続けても法に触れないのか、逮捕されないのか」と。

 漁民からの訴えを受けた日本共産党の小川きみ子さん(参院長崎選挙区候補)は、「国は、『影響は近傍のみ』といって事業を推進した。海底で生物も海藻も育たない事態は正常な海ではない。漁業者のみなさんと共に宝の海を取り戻すため全力を尽くしたい」と語りました。

貝類消え、エビ、サワラも漁具の借金が残ったまま
県共同センターに寄せられた漁民の声

●この沖合は六〜八キロものスズキがとれる宝の海域だった。まず貝類がおらんようになり、グチ、エビ、ガネが消え、餌(えさ)がなくなった魚類は太刀魚、鰆(サワラ)、ヒラメと次々だめになった。よくとれて四年前の二割だ。
●今の季節、島原周辺の島や浅瀬では、ヒジキや銀葉草などの豊かな海藻が生いしげり底が見えなかった。今は小さな庭石までわかり、海藻は一本もない。ワカメも育たず、もう藻場はほとんどなくなった。
●前借りで使ってきた漁具の借金は残ったまま。払えんなら漁具も入れてもらえん。生活の苦しみは妻たちがもっと感じている。漁業と関係のある大工さんも機械や網の業者も困りきっている。