営農も漁業も、防災も成り立つ方策を
堀江県議が、「上告放棄抗議決議」に反対討論

 長崎県議会では16日、菅首相が福岡高裁の「開門命令」判決にしたがい、上告を断念したことをうけて、「上告放棄に抗議する決議案」を自民党の21人が連名で提出しました。
 これについて、日本共産党堀江県議が反対討論にたち「早期に開門する」ことを求めましたが、決議案は民主、自民、公明などの賛成で可決されました。
 以下に、堀江議員の反対討論を紹介します。
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 日本共産党の堀江ひとみです。
ただいま議題となりました「諫早湾干拓事業の福岡高裁判決に対する国の上告放棄に抗議する決議案」について、以下の理由で同意できません。

 昨日、菅総理みずから、政府は上告を断念すると発表しました。上告断念は、開門をめぐる長期間の争いに、終止符を打つための大前提であり、政府の英断を心から歓迎します。今回の政府決定は、10数年にわたる漁民や市民団体の奮闘、県民と国民の世論に後押しされたものに、ほかなりません。
 今後は、判決に従い、一日も早い開門にすすむことが求められています。私は、原告弁護団が提唱している「開門のための協議会設置」に、政府が踏み出すことを、強く求めます。

 さて、決議は高裁判決を、「地元の実情を踏まえておらず、実態を正確に評価していない」としていますが、そうではありません。高裁判決は、生活の基盤が侵害されようとしている漁業者の現実被害と、国が主張する抽象的な被害のおそれ、とを比較した結果、開門を命ずる結論に至っています。むしろ、地域の実情を十分に理解したうえで、このような判断を行っているのです。

 1、防災効果について
 潮受堤防による締め切りは、広大な貯水池を作っただけのことですから、洪水時の防災機能が、限定的であることは当然のことです。
 昨年6月29日から断続的に降り続いた大雨によって、森山地区に湛水被害が生じたため、背後地の土地改良区の要望を受けて、長崎県は北部排水門を開門して排水を行いました。その際に、開門を求める漁業者が「開けるな、大量排水するな」と求め、開門に絶対反対と言っている農業者が、「開門して排水するよう」求めました。同じ状況は、今年もおこりました。
 つまり、締め切りの有無に関係なく、真に有効な防災のためには、本明川の河川改修をすすめて、低平地に排水ポンプを増設し、高潮が予想されるときは水門を閉めて対応すれば、開門しても大丈夫なのです。

2、代替水源について
 高裁判決は、必要とする水量がわずかなうえ、国が代替水源の検討すらしていないことを、批判しています。2009年の実際の年間使用量は41万立方メートル、国や長崎県が言う「必要水量」の12.4%にすぎません。大変な過大見積もりです。本明川や境川の水、すでに流れ込んでいる年間271万立方メートルの下水処理水で十分です。
 調整池には、有毒のアオコが毎年大量に発生し、有毒のミクロシスチンが検出されました。ミクロシスチンは、WHO・世界保健機関も厳しく規制しています。調整池の水を使わず、きれいな水でこそ、農業の真の繁栄が実現します。

3、塩害について
 根拠を示さずに、抽象的危険性を主張する国の態度を、批判しています。海水のしみこみによる塩害のおそれはありません。
 佐賀県、福岡県の筑後・佐賀平野は、農地の標高が低い点では、佐賀県下の干拓地と諫早湾干拓農家と条件は変わりません。そして、有明海沿岸に多くの干拓地を有する佐賀県下において、干拓地で海水浸透による塩害の被害は発生していません。
 諫早湾干拓営農地では、内部堤防内側に遊水池の役目を果たす排水路が張り巡らされているので、心配ありません。実際に、短期開門調査時においても、調整池全域が塩水化されていたにもかかわらず、塩害は生じていないのですから、開門の規模をさらに拡大したとしても、海水のしみこみによる塩害のおそれはありません。

 討論時間の制限もあり、これ以上のべることはできませんが、要するに、福岡高裁判決は、営農効果についても、新たな漁業被害が発生するおそれについても、国が抽象的に危険性を唱えて、その具体的な根拠を示さないことを批判しています。長崎県は「開門したら大変だ、大変だ」と言いますが、同じ主張をする国が、その裏付けとなるべき客観的な資料を、裁判所に提出できかなったからこそ、今回の判決になっています。

 営農者も漁業者も同じ、長崎県民です。これ以上、県民同士で争うという図式を続けてはなりません。営農も漁業も、防災も成り立ち、有明海の再生につながる道にふみだすことを、強く求めて、討論といたします。