請願の趣旨をご説明いたします。佐賀地裁の仮処分決定は、単に工事の中止を命令しただけではなく、この中止期間に「事業全体をさまざまな点から精緻に再検討し、その必要に応じた修正を施すことが肝要」と述べて、有明海の再生の必要性を現状保全の中心にすえています。その有明海の再生は、諫早湾干拓事業の見直しによってしかできません。
 そのためには、未来を見通した大局的立場に立ち、誰もが納得のいく解決をはからなければなりませんし、その解決は可能であると確信します。
 諫早湾干拓事業の最大の矛盾は、この事業により有明海異変が決定的になったことにあります。その最も大きな原因が、潮受け堤防によって流動が変化したこと、なかでも潮流の流速が低下したことにあることが明らかになっています。97年の堤防締め切り後、この流速の低下により、赤潮の多発と大規模化、海水貧酸素の広がり、海底底質の泥化などの異変が極めて顕著になり、漁業被害が深刻になりました。したがって、有明海再生のキ−ワ−ドは「潮流の回復」にあります。そのためには、近傍に悪影響を与えない適切な操作によって堤防の水門開放をおこない、どのような方法を講じれば潮流の回復が可能になるかを科学的に解明することが必要です。
 ところが、農水省は、水門の中・長期開門調査を見送り、その代わりとして有明海再生代替策なるものを策定して来年度予算化を図ろうとしています。しかし、この代替策は、病気に例えれば、胃ガンの患者に根本的治療を施さず、胃腸薬を飲ませるに等しい対症療法にすぎません。諫早干拓をタブ−視してこれに手をつけない再生策は、いくら推進しても潮流の回復は望めず、有明海再生が遠のくばかりで、結局税金の無駄遣いになるのは目に見えています。
 この事業は「高潮・洪水・排水不良にたいする防災事業」とされています。しかし、防災事業は佐賀県のように、湛水排除には排水機場、高潮には標高が高い海岸堤防などの、本来的な防災施設の建設でおこなうべきものであります。それを農水省は、周辺住民が遠い祖先の時代から、豊かな恵みを受けてきた干潟を壊滅させる複式干拓によって行うという、無謀で非効率的な工法で強行したのです。それは決して周辺住民が望んだことではありません。周辺住民にとって、干潟を失ったことは子々孫々にいたるまで、計り知れない経済的損失、文化的損失を与えたことを意味します。諫早湾干拓事業見直しが、有明海と諫早干潟の再生、そして低平地の防災対策見直しを伴うものならば、必ず周辺住民の合意をえられるものとなるはずです。
 私たちは、干潟の干拓を全面否定しているわけではありません。古来「五十年一干拓」といわれるほどに潟土の堆積にともない地先干拓がおこなわれてきました。百年来干拓がおこなわれていない小野、森山などの地先で、潟土の堆積が2メ−トルに達する部分が広がっており、地先干拓の必要性が指摘されてきました。したがって、諫早湾干拓事業の見直しに当たっては、潮流の回復に必要な干潟の復元を前提にした地先干拓という選択肢もあるのです。このように考えると、事業全体の再検討、必要な修正を施すことを指摘した仮処分決定の具体性が明らかになってきます。今求められていることは、未来を見通し、大局的立場に立ち、誰もが納得できる解決を目指して、円卓のテ−ブルにつくことです。委員各位が仮処分決定を真摯に受けとめていただき、本請願をご採択いただきますようお願いいたします。


「諫早湾干拓事業の見直しを求める意見書採択に関する請願書」

         請願人 諫早湾の干潟を守る長崎県共同センター
                   代 表  高村 暎

1.請願の要旨 佐賀地方裁判所の「諫早湾干拓工事中止」命令の仮処分決定を 尊重し、国に対し@異議申し立ての取下げ A水門の中・長期開門調査の実施 B諫早湾干拓事業の見直し、諫早湾と有明海再生事業への転換 C工事に従事 していて経済的損失をこうむる漁業者への補償等に関する意見書を採択してい ただくことを請願いたします。

2.請願の理由 佐賀地方裁判所の仮処分決定は、有明海における漁業被害の原 因が諫早湾干拓事業にあることを明確に認めました。仮処分決定はその根拠と して、@農水省がもうけたノリ不作等調査の第三者委員会の見解 A多数の学 者がそれを裏付ける研究成果を次々に明らかにしていること Bそして漁民が こぞって日々の実体験でそれらの変化を証言していることをあげ、「原因はわ からない」としながら、原因解明を目的とした水門の中・長期開門調査を怠る 国を厳しく批判しています。

そして漁業被害を防止するために、工事が完了した部分、進行中の部分、工事予定の部分を含めた事業全体を再検討し、必要な修正を施す(見直す)ため にすべての工事を中止することを命令したのです。仮処分決定は、有明海異変による漁獲量の激減で、借金を抱えて心中や自殺者が相次ぐなど、深刻な状況に置かれている有明海漁民のみなさんに、未来へ の大きな希望を与えました。また、全国的に「自然と人間」が共生する環境重 視の流れが強まる中で、今後の公共事業のあり方を国民の立場から見直す上で も画期的な決定であり、世論によって積極的に支持されています。

 農水省は佐賀地裁はへの異議申し立てを取り下げるとともに、裁判所の命令が指し示したように、ただちに工事中止期間に事業全体を再検討して見直しを おこない、樋門と堤防の緊急改修と近傍に悪影響を与えない水門の適切な開閉 による中・長期開門調査をおこなって、自ら有明海異変の原因を解明して、諫 早湾と有明海の再生のための事業を行うべきです。

10月16日
 諌早湾干拓見直し求める請願人の趣旨説明
      諫早湾の干潟を守る県共同センタ− 代表 高村暎