2011年2月2日 しんぶん赤旗
アセス待ちより協議一日も早く
諫早湾の開門決定に寄せて
  東 幹夫

開門決定の意義
 昨年12月6日の福岡高裁の控訴審判決と12月15日の菅首相の上告断念によって国の開門義務が確定し、3年以内に5年間の常時開門が決まりました。
 国営諫早湾土地改良事業(諫早干拓)は、総事業費2554億円、年間農業生産額45億円、費用対効果は0.19と、法的要因(1.0)にはるかに及ばない文字通り無駄な公共事業であるばかりか、潮止め後は赤潮や貧酸素水塊の頻発と漁業被害総額4229億円にも及ぶ深刻な被害をもたらしてきました(宮入興一愛知大学教授、2006年)。

 今回の高裁決定は漁業被害と諫早干拓との因果関係を諫早湾とその近傍において認めたもので、加えて潮止めによる諫早干潟の喪失の潮汐・潮流減少による赤潮や貧酸素水塊の可能性を認めました。漁業被害の続く生活苦の中で、有明海漁民は原告2553名の中軸として開門を求めて粘り強く裁判闘争を続けてきました。

有明海漁民とそれを支えてきた「よみがえれ!有明訴訟」弁護団、地域と全国の支援団体、研究者らのいわば民主的ネットワークの長期にわたる闘争が20世紀型公共事業を破綻に導き、有明海再生の一歩を踏み出す道を切り拓いたのです。

喫緊の課題
 これまで共同歩調をとってきた国の上告断念に反発して、公開質問状を出し、開門協議に応じない長崎県は、開門に伴う漁業被害や防災への懸念、農業用水の困難、潮風による塩害や地価の塩分上昇などを理由に開門反対を強めています。
しかし、調整池の水は水質保全目標の2倍以上でほとんど使えないし、水量の少ない畑地農業なので、代替水源を得ることは容易です。また、塩害や塩分上昇の佐賀県などと条件は同じです。

 2001年12月に「ノリ第三者委員会」が提起した中・長期開門調査をサボタージュして事業を完成させ、環境アセス先行論によって中・長期開門を先送りにした「前科」をもつ農水省は、5月に出る予定の環境アセス中間報告を待って開門方法や開始時期を検討するそうです。
 一方、漁民側は早い開門協議を望んでおり、弁護団も水門の開け幅を02年の短期開門レベルから初めて徐々に広げて行く「段階的開門」方法ならノリ漁期の終わる今年5月の開門も可能だと主張しています。
 開門が決まったいま、開門先送りにつながらる環境アセス待ちよりも開門方法、代替水源確保、防災機能維持などの事前対策のための開門協議を一日も早く始めるべきでしょう。

有明海再生へつなぐために
 開門の再生効果の一つの手がかりは短期開門調査です。海水導入による懸濁物質、全窒素、全リンの劇的減少によって調整池の水質は著しく改善されましたが、有機物を浄化する底生動物の回復が短期間では不十分なため、有機汚濁の指標(COD)の変化は小さいままでした。この問題は長期開門が解決します。

 調整池外の諫早湾を含む有明海については、潮止め直後から現在まで毎年行っている私たちの調査結果があります。調査海域50定点における底生動物の平均生息密度は、97年6月から01年6月の間に約50%減少しましたが、短期開門調査後の02年6月には前年の4倍以上に激増しました。

 しかし03年以降09年まで再び減少に向かっています。短期開門調査後に底生魚貝類の漁獲量が一時的に回復したとの漁民の証言が多数寄せられていますが、底生動物調査の結果はそれを裏付けるもので、27日間の潮位差0.2b以内の海水導入という小規模な開門でも有明海生態系に顕著な変化を与えたことを示唆しています。

 今後5年間の常時開門が実施されれば、有明海再生への展望が開かれるでしょう。

(あずま・みきお 1938年生まれ。長崎大学名誉教授、有明海ノリ不作対策第三者委員会委員。専門は水域生態学。)