非核の政府を求める県民の会、川口龍也さんからの投稿をご紹介します。
原水爆禁止2007年世界大会−長崎
        第6分科会 非核自治体運動の前進のために

ー特別報告−
  
長崎県における非核自治体運動の取り組みについて

                           2007年8月8日
                           非核の政府を求める長崎県民の会 
                                    川口 龍也
 
 私は非核の政府を求める長崎県民の会の川口です。長崎県の非核自治体運動の取り組みについて、3点ほど報告します。

◆第1 全23市町議会での「核兵器全面禁止・廃絶国際条約の締結促進を求める意見書」の可決について
 佐世保市議会は今年7月11日、6月定例最終本会議において、私たち非核の政府を求める長崎県民の会が陳情していた、「核兵器全面禁止・廃絶国際条約の締結促進を求める意見書」を全会一致で可決しました。
 意見書の内容は「人類を核破局から救い、非核・平和の世界を実現するうえで、核兵器の全面禁止・廃絶にかわる代案はない。日本政府は、唯一の被爆国として、核兵器の使用、実験、研究、開発、生産、配備などの一切を禁止する『核兵器全面禁止・廃絶国際条約』を一日も早く締結するよう、関係諸国にたいし、格段のご尽力をされること」を強く要請するものです。

 佐世保市議会には、2000年12月議会に議長と面会し、「陳情書」を提出しましたが、2001年3月議会に継続審議となり、その後、県内、最後に残った唯一の未決議議会となっていました。これで、県内の23自治体、全てで可決されたことになりました。

 本会の第1の大きな挑戦だった全自治体の「非核平和宣言」は、最後に残っていた対馬・美津島町が1999年3月議会において制定し、当時、80自治体の全てが「非核平和宣言」を制定しました。100%達成までには、1983年3月、小浜町の第1号以来、実に16年間を要しました。

 第2の大きな挑戦は、全自治体議会「核兵器全面禁止・廃絶国際条約の締結促進を求める意見書」(「核兵器の緊急廃絶に関する意見書」を含む)の決議でした。
 2004年3月から始まった「平成の大合併」より以前、県内79市町村議会のうち78市町村議会が「意見書」を可決していましたが、唯一、佐世保市議会だけが残っていました。
 昨年12月議会に再度、提出しましたが、議会の申し合わせにより、紹介議員がいる「請願書」ではないために、「陳情書」は、議案として扱われないで、資料配布のみに終わっていました。

 そこで、6月12日、3度目の「陳情書」を直接、議長に面会のうえ提出して、陳情・要請しました。
 世界の核兵器の危機的状況、米元高官らの核兵器廃絶の提言、県内の「意見書」決議の市町議会配置図等の資料を示し、6月議会で必ず決議されることを強く要請しました。この陳情は、事前にマスコミに取材要請していましたので、すべてのマスコミが注目し、NHK,NBCのTVインタビューが放映され、翌日は新聞が報道しました。  

 議会事務当局者は「従来の流れでは今回も資料配布のみになるでしょう」と事務的消極的なひややかな態度に終始し、私、自身もマスコミのインタビューでは「被爆地長崎と米軍基地佐世保とは温度差があると思うが、期待しています」と言ったものの、とても気がかりでした。
 総務委員会で審議され、マスコミ関係者から「意見書」が最終本会議に提案されると聞きましたが、米軍基地のある議会だから最後まで何が起こるか分からない、と思い緊張して傍聴席から成り行きを注目していました。

 しかし、久間前防衛大臣の「原爆投下はしようがない」発言直後でもあり、松尾議長が「核兵器は世界からなくさなければいけない」と述べているように高度な政治判断がなされ、「意見書」は全会一致で可決されました。

 米軍の核兵器搭載可能艦船が頻繁に出入りしている佐世保基地の議会が「意見書」を全会一致して可決した政治的な意義ははかりしれないものがあり、きわめて画期的な成果であると言えます。
 同時に、客観的には久間発言は容認できないという佐世保市民の明確な意思を示したことになり、佐世保市民の平和と核兵器廃絶の願いを表明したものとして、情勢の大きな変化を痛感しました。

 市議会終了後、佐世保市政記者室において、全23市町議会で「意見書」が可決されたことについて、記者会見しましたが、これよりさき、「意見書」が可決された途端、NHK・TVのインタビューがあり、夕方のローカル・ニュースで大きく放映され、また、全ての地元新聞が報道しました。

 すでに、6月定例市議会においては、「平成の大合併」で新設された諫早、平戸、松浦、南島原の4市議会も「意見書」を可決していました。これにより、「平成の大合併」で新設されていない市町議会のうち、すでに「意見書」を可決すみの3市9町議会とあわせると県内の全23自治体(13市10町)が「意見書」を可決したことになりました。

 これは、日本原水協が被爆50周年に向け提唱した、「核兵器緊急廃絶を求める意見書」(趣旨は、「核兵器全面禁止国際協定の締結」を一日も早く実現するため、国連をはじめ全世界に対し先導的役割をはたされるよう強く要望)決議運動の一環として取り組まれ、1994年9月、長崎市議会が可決した「『核兵器使用は国際法違反』の立場を堅持し、核兵器の緊急廃絶を求める意見書」可決、第1号から13年目で達成したことになります。

 諌早市議会では、紹介議員がいる「請願書」でなければ議案としては、取り上げられない申し合わせになっています。しかし、総務文教委員会で、重要な「陳情書」ということで、従来の枠を超えて、異例の取扱いとなり、初めて陳情理由を説明する場が設けられました。
 私は「日本が動けば世界が動く。日本が黙れば世界が黙る」と述べられたエジプト高官の言葉を紹介し、国連にはすでに、モデル核兵器禁止条約はあり、政治的意思さえあれば15年間で廃絶することは可能であること等を訴え、説明の機会を与えていただいたことに対しお礼を述べました。
 平戸市議会でも、「請願書」でなければ、だめということでした。
 私たちは、遠い長崎からわざわざ陳情に来ているのに、このままでは引き下がれない、あたって砕けろと必死の思いで、川渕議長に「どなたか紹介議員を紹介してください」とお願いしたところ、即座にたまたま議会事務局に要件のために立ち寄っていた議員を紹介してくれ、他にも、わざわざ電話して議員を議長室に呼び寄せ紹介してくれました。 

 松浦市議会では、寺澤議長が「陳情書」の趣旨はよくわかる、何とかしたいが、申し合わせで「陳情書」は、松浦市内の住民、団体に限り、他市の住民、団体からの「陳情書」は議案としては取り上げない、ことになっているので、どうか理解してほしい、とのことでした。
 本会は長崎市内に県本部があるだけで、支部、分会はまだ、組織していないので、はたと困りました。
 そのことも率直に話し、何とかいい知恵はないでしょうか、と相談・要請したところ、松浦市在住の団体であれば、いいですよ、ということになり、急遽、松浦市原爆被災者の会に相談して、陳情団体名を同会名に差し替え、提出期限内に提出することができました。

 この活動のなかで、いづれの議長も対応が本当に協力的で、議会の申し合わせを超えて、「意見書」可決のために尽力していただいたことは、やはり、議会も変わってきている、という実感を強くしました。

 みなさん ご承知のとおり、議会の「意見書」は、地方自治法第99条の規定により、関係機関に送付することが出来ます。すでに23市議会は、総理大臣、外務大臣、防衛大臣等あてに「意見書」を送付しています。

 本会は早速「長崎県内の全23市議会『核兵器全面禁止・廃絶国際条約の締結促進を求める意見書』等集」を作成しました。
 安倍首相、麻生外相あてに、被爆県長崎の全23市議会が「意見書」を可決したことを知らせると同時に、「原爆投下はしょうがない」、「核兵器武装論」発言などに象徴される安倍自公政権が「核兵器容認政策」を抜本的に改め、世界平和と核兵器廃絶の実現のために、国際社会の場において、先導的な役割を果たすように「『核兵器全面禁止・廃絶国際条約締結の促進を求める」要請書」に「意見書」等集を添付して送付しました。

 本会は今年の被爆62周年の原爆祈念日まえまでには、なんとしてでも全23市町議会が「意見書」を可決して、被爆県長崎の一日も早い世界の平和と核兵器廃絶の熱い思いを全世界に示そうという堅い決意のもと、未決議の5市議会議長に直接面会し、この6月議会で100%可決にしようと陳情活動をおこなってきました。
 この思いが見事に実現し、被爆県としての歴史的な責務の一端を果たすことが出来たと思っています。

 1995年12月29日の「ヒロシマ・ナガサキからのアピール」核兵器廃絶国際署名の長崎県民人口の過半数突破達成、1999年3月の全80自治体「非核平和宣言」制定と2006年7月の全24自治体「非核平和宣言」回復と並ぶ長崎県における非核・平和運動史上、被爆県であるから当然なことだといえばそれまでですが、画期的な快挙であると思います。

 これは、国内外の非核・平和を求める世論の広がりと何よりも被爆者はもとより県民のみなさまはじめ、自治体・議会の関係者、報道機関のみなさま方のお力添えの賜物であると思います。

◆第2 全24自治体(県、13市、10町)の「非核平和宣言」回復と実効性のある「非核平和宣言」にするための施策の拡充、日本非核宣言自治体協議会への加入促進、「アンケート」活動について
 
 昨年7月、最後の新設市である南島原市が「非核平和宣言」を制定しましたので、昨年の被爆61周年は、県内の(県を含む)全24自治体が「非核平和宣言」を回復して、原爆祈念日を迎えることができました。
 2004年3月から2006年3月までの3年間で、「平成の大合併」は急速にすすみ、79自治体(8市、70町、1村)は、新設10自治体(9市、1町)が生まれ、あわせて、23自治体(13市、10町)に激減しました。

 本会は「非核平和行政の空白は一時たりとも許されない」との立場から、新設市町に対し新「非核平和宣言」の制定を求めて、市長、町長に面会して、要請・懇談をおこなってきました。その結果、3年間で、100%に回復することができました。

 問題は、「非核平和宣言」をただ、しっぱなしにするのではなく、本当に実効性のある「非核平和宣言」にするかどうかが、行政だけではなく、運動をすすめてきた私たちにも、さらに、住民にも求められていると思います。「非核平和宣言」は、条例ではありませんので、法律的な拘束力はありませんが、その決議に基づく、崇高な理念、精神を行政のあれこれのひとつではなくて、人類の存亡にかかわる歴史的な緊急課題であり、行政の最重要課題の柱の一つとして位置づけることができるか、どうかにあります。  

 非核平和行政を推進するためには、いま、自公政権による「地方行革」のもとで、たしかに財政困難な状況に追い込まれていますが、知恵と工夫をこらし、いかにして、施策を充実し、必要な事業予算を計上し、例えば核実験や核兵器搭載可能艦船寄港、自衛隊の海外派兵、「国民保護計画」、海外で米軍とともに「戦争をする国」つくりをめざす憲法9条の改悪など住民の平和と生命、安全を守る上で大きな問題が生じた場合、非核平和宣言自治体の責務として良識と勇気をもって明確な態度表明をおこなうことができるか、否かということが鋭く問われていると思います。

 本会は、旧全80自治体が「非核平和宣言」を制定した時、県庁で記者会見し、「非核平和宣言」が宣言のしっぱなしでなく、それが実効性あるものになるように、毎年度、全自治体に対して「非核平和行政に関するアンケート」を行い、その回答結果について、県民のみなさんに公表すると約束しました。

 それで、「アンケート」の前提となる「非核平和予算の計上並びに非核平和施策の拡充等について」の要請書を全自治体首長にたいして、毎年度、予算時期である11月ごろ、提出してきました。
 その後、「要請書」がどう施策に生かされているのかを掌握するために、翌年6月に、全自治体首長に対して「非核平和行政に関するアンケート」を行ってきました。

 以来、2000年度から毎年度、実施し2006年度までに、7回、会結成(1987年7月25日)以来、通算11回目になります。
 毎回、100%の自治体から回答が寄せられ、毎年、原爆祈念日まえには、県政記者室において、回答集約結果を公表してきました。今年度は、遅れており、まだ、実施してはいません。

 「アンケート」の質問項目は、@非核平和行政の窓口、A非核平和予算、B「非核平和宣言」を裏付ける具体的な施策、活動(例えば、未臨界核実験への抗議、自治体広報紙で平和の啓蒙活動、原爆写真展、被爆体験を聞くなどの21項目)、C平和市長会議が提唱している「2020ビジョン」に呼応した具体的な行動計画(特設)などとなっています。

 2000年度から2006年度までの7年間の「アンケート」結果を比較してみて、果たして、施策は前進してきているのか、後退、停滞しているのか、その若干の特徴を述べたいと思います。
 基本的には、2000年度から「平成の大合併」が終了した2006年度までは、質問項目は変わっていません。

1、「非核平和」予算について
@予算計上、各費目分散、個別支出の合計(計上している)は、20自治体 83.88%(00年度比47.08%増)
A計上していないは、4自治体 16.67%(00年度比47.08%減)で約5割の前進となっています。

2、「非核平和宣言」を裏付ける具体的な施策、活動について
@、1位…自治体広報紙で平和の啓蒙活動をしたり、パンフレットを配布したりしているは 12自治体 50%(00年度比40%増)。
 2位…被爆者から被爆体験や戦争体験の話を聞いているは、11自治体45.83%(00年度比 28.33%増)。平和の集いを開いてパネル展示(戦争、被爆など)などをおこなっているは、11自治体 45.83%(00年度比39.58%増)
A21項目のうち、00年度比において、すべての項目で増となっています。旧市町村ごとにどのようになっているか総合的に分析して判断する必要がありますが、00年度と対比する限りにおいては、全体としては、前進していると評価できると思います。

3、日本非核宣言自治体協議会への加入状況
 本会は市長・町長との面会した際など機会あるごとに強く要請してきた「日本非核宣言自治体協議会」への加入は、新設した南島原市に次いで、西海市、雲仙市が新に加入しました。
 これで、10市、2町が加入したことになり、52.17%の加入率になりました。まだまだ、不十分ですが、「平成の大合併」まえは、7市、9町、20.25%の加入率でしたので、一定の前進がみられます。

4、施策の拡充等
 今年度は、まだ「アンケート」は実施していませんので、全面的には集約できていません。現在、掌握している主なものは、県と長崎市は除いての若干の特徴は、長崎市に隣接している時津町は、昨年に引き続き、DVDの作成などに300万円、長与町は原爆展、アニメ映画「アンゼラスの鐘」上映、灯ろう流しなどに150万円を計上しています。
 諫早市は、昨年に引き続き、原爆展、被爆体験を聞く会を開き、市のHPに戦争体験を掲載するように企画中です。
 西海市では、市と民間団体、市民による実行委員会が原爆展、被爆体験を聞く会を開きました。
 これら以外でも、それぞれの自治体が財政難を克服して、知恵と工夫をこらして、多彩な施策をすすめているものと思います。

◆第3 今後の課題
1、「非核日本宣言」賛同の取り組み
  全自治体首長・議長及び著名人からの賛同に取り組みます。

2、「すみやかな核兵器の廃絶のために」賛同署名の取り組み
  現在、21市町長及び23県市町議長から賛同署名が寄せられています。
 未署名の県知事、佐世保市長、諌早市長及び佐世保市議長からも賛同をいただくよう、原水協と共同して、全自治体首長・議長からの賛同に挑戦します。

3、「非核平和宣言」を実効性あるものにするため、施策の拡充等及び日本非核自治体宣言協議会への加入促進をはかります。
 非核自治体を訪問し、首長・議長・担当者と交流・懇談を深め、施策の拡充及び日本非核宣言自治体協議会加入に努力します。

4、本会結成20周年記念講演会を長崎市内で開催します。
 今年11月17日(土)、アラン・ウエア・ニュージーランド国際平和ビューロー副会長を講師に「核兵器廃絶の展望 憲法9条 非核の政府」を語る〜非核の国・ニュージーランドから見た日本〜について、非核自治体担当者、市民とともに学び、今後の運動発展の力にします。

 以上、特別報告をおわります。ありがとうございました。