諫早湾干拓潮受け堤防閉め切り三周年にあたって

              二〇〇〇年四月十四日  日本共産党長崎県委員会

 本日四月十四日、諫早湾干拓事業の潮受け堤防閉め切りから丸三年を迎えます。
 ムツゴロウをはじめ豊かな生物を育んだ干潟は干上がり、空をうめるように舞い飛んだ鳥たちの姿もなくなりました。人々の暮らしを支え、心をいやしてきた自然環境のかけがえのない価値をあらためて痛感し、いまこそ、水門をあけて潮を入れ、干潟の自然の再生をはかるよう日本共産党は強く求めます。

 調整池の水は茶色く濁り、三年経過した今でも水質は改善されません。COD5r/?、全窒素1r/?、全燐0・1r/?という環境アセスメントの目標値は達成されず、環境庁の環境基準による海域における「生物生息環境保全」すなわち「年間を通して底生生物が生息できる限度」さえ超えた汚染になっています。
 このような生物も生息できない水が、降雨のたびに排水門から大量に放流された結果、周辺漁場への被害を広げています。一九八九年度には三億五千万円あった小長井漁協のタイラギ漁は、九三年にはゼロになり、以来七年の休漁がつづいています。養殖漁業の中心であったアサリも甚大な被害を受け、年間三億円あった水揚が三分の一に減っています。あいついで赤潮が発生し、島原半島沿岸のワカメ養殖にも被害が出ています。
 しかし、国も県も「干拓事業とタイラギの不漁の関係は現段階では究明されていない」などといって、これらの漁業被害に対して一切責任をとろうとしません。堤防閉め切りと排水による漁場への影響について、科学的な調査さえ行っていません。こうした国や県の姿勢に、漁民の怒りの抗議がつよまっているのは当然です。
 昨年六月には小長井町漁業協同組合の青壮年部が、県知事に「諫早湾干拓事業による漁業被害の原因究明と緊急対策を求める要望書」をだし、被害の救済とともに第三者機関による漁業被害の原因究明、調整池からの汚水放流の中止を要求しました。 九月十二日には、小長井町漁協の理事ら組合員十人が北部排水門に漁船をあつめて、調整池からの排水を阻止する抗議行動をおこないました。今年三月二十五日には、佐賀県太良町大浦漁協の有志でつくる「漁師会」の五十人が漁船十五隻で海上から抗議し、干拓事業の中止、排水門の即時開放を求めました。
 これら漁業被害の原因として、「堤防締切り後、二年間で堤防の外側海域の底生生物が六割減少している」という調査が発表されました。長崎大学・水生生物学の東幹夫教授らの調査によるもので、堤防外側の諫早湾から有明海にかけての三十八地点の海底の底生生物の数を、閉め切り時と昨年六月時点で比較した結果です。また、堤防建設のため大量の砂を取った海域では低酸素の水塊が広がり、生態系を破壊している状況も判明しました。干拓事業こそ漁業被害の原因であることは明らかです。
 日本共産党はあらためて、国と県が第三者機関による全面的な漁業被害原因究明の調査を行い、緊急の救済策と補償をおこなうなど、誠実な対応を取るよう強く求めるものです。
 また、二〇〇一年には「時のアセスメント」が実施されます。その場合、徹底した情報公開と科学的な検証をおこなうことを要求します。
 干拓で生まれる農地でなにをつくるかという、営農構想がいま検討されています。本来、「これだけのものをつくる農地が足りないから干拓が必要」と計画されるべきものなのに、土地ができた段階でつくるものが検討されるという逆立ちした話で、そこに見えるのは「大型公共事業先にありき」という国の姿勢です。
 検討委員会で、野菜、施設園芸、畜産の八類型がモデルとしてあげられていますが、十年前たてられた計画とほとんど変わらず、ばれいしょ、たまねぎ、酪農、肉用牛などが中心になっています。ばれいしょ中心の営農計画に対して地元の農協組合長から「干拓地の潟土で、品質のよい売れるばれいしょはできない」と批判が出たと報道されていますが、かって森山干拓地における県総合農林試験場の試験栽培でも、ばれいしょ、たまねぎの栽培の困難性が明かになっています。
 しかも、一戸三人でばれいしょ、たまねぎ二〇f、酪農は飼料畑八f一八六頭、肉用牛は飼料畑七fで二一五頭を飼うという、当初計画の倍以上という県下でも例がない大規模経営が計画されています。はたしてそれ程の生産があがり、想定した価格で全部売れるのか、重大な懸念があります。仮に、万が一計画通りにいった場合は、既存の県内産地が大きな打撃を受けることになります。

 総事業費千三百五十億円、二〇〇〇年度完成といわれた事業は、完成が二〇〇六年度までのび、事業費は一・八倍の二千四百九十億円に膨らみました。九州農政局の計算で一・〇三倍といわれてきた費用対効果も、今では一・〇一倍に低下しましたが、算定されていない干潟の巨大な水質浄化能力などを計算に入れれば費用がはるかに効果を上回り、巨大公共事業の浪費の姿が明白になります。
 さらに、「しんぶん赤旗」の調査で、諌早湾干拓事業における九八年、九九年の一般競争入札で発注された工事が全て初回の入札で落札され、落札価格も予定価格の九八・三%(平均)と以上に高い水準になることが判明しました(三月二十三日)。農水省と県当局は受注したゼネコンに談合がなかったのかどうか、徹底して解明するよう要求します。

 諌早湾干拓の潮受け堤防締めきりをめぐり、長崎県でもこれに反対する運動と世論が大きくひろがりました。日本共産党も幅広い団体や個人のみなさんとともに堤防締めきりに強く反対し、締めきり後は一日も早く水門を開けることを一貫して要求してきました。こうした世論と運動は堤防締めきり後さらに全国にひろがり、愛知県の藤前干潟が守られることになりました。吉野川の可動堰では、その建設に反対する市民が圧倒的多数を占めました。貴重な自然をつぶす愛知万博もその抜本的な見直しをせまられています。
 貴重な自然を破壊し、経済的効果も上がらない大型公共事業優先の政治の転換が切実に求められています。日本共産党はいまこそ諌早湾干拓の事業を見直し、これ以上の税金投入を中止するとともに、すみやかに堤防の水門を開けて潮をいれ、調整池の水質浄化と干潟の再生をはかるよう強く要求いたします。